~豊かさの実感─本物の美しさ~【3匹の子ぶたvol.059】

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第2章 あなたの家の値段はいくらですか?


あなたの家の値段はいくらですか?(20

豊かさの実感──本物の美しさ

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日本は個人の資産額一四〇〇兆円といわれているように、経済的には豊かな国になり、
家電製品やブランド品の所有など物的欲求については高い水準になった。

しかし、よくいわれるように生活の豊かさの実感は薄い。
その大きな原因の一つが家のあり方、家をつくる現在のシステムにあることはすでに指摘したとおりだ。
本章の最後に、もう一つ別の視点から豊かさについて考えてみたい。
それは、木造の長寿建築の代表格である法隆寺や、数奇屋の代表格である桂離宮など、
有名な建築物はなぜいまにその姿を私たちの目に映してくれているのかということだ。

法隆寺や桂離宮を支えたのは、一つには権力と金の力の象徴であったということがある。
寺社建築や権力者の屋敷、豪商の居宅など、
莫大なおカネをかけてつくった建物はよい材料とよい技術で建てられたからである。
だがそれ以上に重要なのは、それらが美しかったからではないだろうか。

文化的に価値があるとか、建築学的に価値があるといわれているものはみんな「美しい」ものである。
美しいという意味のなかには「まがいものがない」「本物である」という意味もある。
]まがい物は時代とともに自然消滅していくが、「本物」は残っていく。

しっくいの壁一つをとっても、良質なしっくいと施工する職人の腕がなければ補修もメンテナンスもできない。
さらに、「本物」の素材が持つ「経年美」もあるだろう。
たとえば代々住み継がれてきた農家建築の磨かれつづけてきた太い大黒柱を想い描いてみる。

あるいは、古民家の囲炉裏の煙にいぶされた、柱や梁の風景を想い描いてもいいかもしれない。
「本物」の素材は陳腐化せず、年月を経るごとにその存在感を増していく。
日本人はヨーロッパの街並みの美しさに感嘆する、そして日本の街並みを見て落胆する。

多くの外国人を感嘆させた美しい建築をつくった日本人の住宅が、どこか貧相に見えるのはなぜだろうか。
戦後のバラックが残らなかったのは、その耐久性ゆえだけでなく美しくなかったからである。
では、現在、私たちのまわりで日々、建てられつづけている住宅は残っていくだろうか。

後世の人々は残したいと思うだろうか? 慶應義塾大学の坂本功教授は、「日本の一般の民家は弱いけれど、
寺社仏閣などの著名な建築は十分な耐震性や耐風性を保持していると思う人がいるかもしれないが、
研究によってそれが誤解であることがわかってきた」と語っている。

「法隆寺でさえ最初から意識的に耐震、耐風にすぐれた建築を
建てようとしていたかどうかはどうも疑問である」というのだ。

法隆寺の堂宇が一三〇〇年も保たれてきたのは、当初の構造によるのではなく、
むしろ欠陥があったり老朽化したりしてきても、
その時々の宮大工の手によって適切な補修・修理が施されてきたことによるのだと。

つまり、メンテナンスによってその姿を現在に保っているのだ。そのうえで教授はいう。

「法隆寺を建てた大工は、一三〇〇年もつものをつくったのではなく、
一三〇〇年もたせるのに値する建物をつくったのです」 日本人は一三〇〇年の間、法隆寺を残そうとしてきた。

権力者だけでなく、普通の人々も残したいと思ってきたはずだ。その想いが法隆寺を支えてきたのである。
法隆寺の美しさは一三〇〇年の時を超えさせる価値があったということだ。

ここには、施主も含めてこれから日本の新しい木造住宅をつくろうとしている人たちが、
考えなければならない大きな示唆があるように思われる。

第1章で私たちは、この地震国日本で、家族の命と財産を守るためには、
木造住宅でも構造計算を行なうべきだと述べてきた。

さらに第2章では、住宅を一〇〇年長持ちする資産価値のある家の重要性とともに、
それを可能にするスケルトン&インフィルや各種保証システムの必要性を述べ、
やはりそれらの前提として構造計算がきわめて重要な役割をしていることを述べた。

そしてもう一つ、家づくりで重要なことは、あなたがその家でどんな暮らしをしてみたいか、

それと、それを形にする家とはどういう家なのかということである。
それもまた……そう、「構造計算」と無関係ではないのである。これについては第3章で述べていこう。

 

 


このコラムは、2007年に発刊された「家、三匹の子ぶたが間違っていたこと」【ダイヤモンド社】の内容から、 弊社代表取締役田鎖郁男の記事を抜粋して掲載しています。詳細については、書籍をご覧下さい。 ………………………………………………………………………………………………………………………………

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