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長坂常インタビュー vol.003

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生活を見つめ直したり、将来を考えたりしながら、
自分の手で空間をつくることが、 新しい豊かな暮らしへとつながる

― 住み手がつくりながら住む家とは、具体的にどのような家でしょうか?

長坂 一言で言うなら、新築スケルトン。つくり自体はシンプルで、特別な構造ではありません。非常に安くスケルトンを買って、あまったお金でつくり込み、あまらなければ、そのまま住むという考えです。実際に中古のマンションを購入して、スケルトンの状態を楽しんで住んでいる人もいますが、それとあまり変わらない新築住宅です。 倍の大きさがつくれるくらいに安ければ、従来は50m2を建てる予算で、100m2の空間が手に入れられることになります。ただし、一応は住めますが、内部は何もされていません。キッチンと浴室・トイレのみが備えられ、外周部は全面サッシ。どこからでも出入りできる、壁のない家です。必要になれば壁は室内側にセルフビルドで用意します。 シンプルな躯体は、住み手の最低限の生活を支える骨格であり、思い思いのライフスタイルを受け入れるおおらかな家といえます。

― 気になるのが、躯体と合わせて提案された‘木アングル’。多くの人が「何だろう?」と興味をもったと思います。どのようなものでしょうか?

長坂 一般的にアングルと呼ばれるものはスチール製ですが、その名のとおりそれを木製にしたものです。スチール製では特別な工具がないとカットしたり加工したりできませんが、木製なら、のこぎりでカットでき、好きなところに釘やビスを打つことができます。木アングルは、日曜大工の道具を使って加工でき、木の家具や空間になじみやすく、接合部がきれいに仕上がるのがメリットです。今回は、立体的にものをつくるのに便利なT字型とL字型を用意しました。これを梁と床に固定することで一人でも簡単に高い棚やロフトをつくることができます。 もちろん、これらがなくても床や壁をつくることはできるのですが、「つくる家」は、住む人が手を動かしてつくらなければ空間が完成しないので、“つくりたくなる”パーツであることがとても大事です。木は、多くの人にとって見た目も手触りも親しみのある素材なので、木アングルを見て「使ってみたい!」と思ってくれることを期待しています。住み手のセルフビルドへの思いを後押しするため、木アングルは「つくる家」に欠かせないパーツと言えます。

シンプルな躯体を買って、後はつくりながら住む。
長坂常さんは、セルフビルドでつくり込んでいく家と、それを助けるパーツ‘木アングル’を提案しています。
住み手が主体的につくる家――そこには、つくりたくなるしくみがありました。

<インタビュー/文:木藤阿由子(建築知識ビルダーズ編集長)>