都内の閑静な住宅街に建つ、介護付有料老人ホーム。外観はバルコニーと木による壁面仕上げが巡り、周辺の街並みにふさわしい温かみのある表情を醸し出している。オーナーは施設の建設にあたり、RC造など各種の構造形式を検討した末、主に事業収支計画の側面から木造のSE構法を選択した。高齢化社会を迎えつつも高齢者のピークを見越し、需要がなくなっても木造であれば建物の減価償却期間により撤退しやすいこと、また建設コストを抑えられるという理由からである。敷地は第1種低層住居専用地域で、許容容積率は100%、最高高さは10m。1階には事務室、浴室、食堂や厨房などが納められ、2階と3階には15床ずつ居室が設けられている。居室の間口は2,970mm、奥行きが5,370mmで、このモジュールが建物全体に通して使われている。1階の食堂などでは広い空間を得るためにスパンを飛ばしたいところだが、階高が限られるため梁成と天井懐をできるだけ抑えたい。それに加え、木造耐火構造とするには梁下にも耐火被覆が必要になるが、梁型が出てくると施工手間とコストがかかってしまう。その2つの解決として、梁は標準材を2本横に束ねた材として石膏ボードを下端に張り、梁成を抑えながらフラットな天井面を実現した。柱も梁に合わせて120×240mmのサイズとして、SE構法の強固な金物で柱と梁を緊結することで、梁のたわみが回避されている。
「歩行感や空気感は、他の構造に比べて柔らかい」というオーナーの評価を得たSE構法は、事業面以外の魅力も余すところなく発揮している。