【激震】ウッドショック!木材価格高騰の理由
木材の需給が逼迫して、価格高騰、納期遅延等が発生する「ウッドショック」が起こっています。世界的な建築需要の高まりによって木材価格が高騰しており、日本の住宅・建築業界は強い危機感を抱いています。調達も難しい局面を強いられており、「そもそも木材を調達できない」という状況が表面化しつつあります。今回のウッドショックはそうした事態に加えて、日本の木材業界が抱える構造的問題が顕在化した側面もあります。このコラムでは、ウッドショックについて、詳しく解説します。(本記事は2021年5月末段階での情報です。状況の変化が予想されますので、ご注意をお願いします。)
<このコラムでわかること>
・ウッドショックとは?
・今回のウッドショックの原因は日本の買い控えから始まった
・ウッドショック前の世界と日本の木材マーケット
・海外で生じたウッドショックでなぜ日本の木材業界が影響を受けるのか?
・ウッドショックが日本の住宅業界に与える影響
・ウッドショックが大規模木造に与える影響
・まとめ
ウッドショックとは?
「ウッドショック」という言葉が、コロナ禍の状況を耐え忍ぶ木造住宅・木造建築市場に大きな影響を及ぼしています。
プレカット会社が見積価格や納期を示せないといった状況が頻発しています。
ウッドショックが発生した主な原因は下記です。
・米国での新築住宅需要の増加や木材相場の変動
・ヨーロッパ諸国の木材需要拡大
・中国の経済回復などに伴う木材需要増により、木材輸入量の増加
・コロナウィルス蔓延を防止するため、輸送コンテナの取り扱いが減少。
上記の結果、日本向けの輸入材と原木の供給量が大きく減ったことが大きな原因です。
ウッドショックの具体的な影響として、木造住宅・木造建築の柱や梁(はり)などに使う輸入木材の需給が逼迫して価格が高騰し、納期も予測できず、そもそも材料が調達できるかどうかが不明な状により、大きな混乱が生じています。
今回のウッドショックは、2021年3月ごろに影響が顕在化し、その後は悪化の一途をたどっています。
「なぜ逼迫し始めたのか」
「いつまで続くのか」
「国産材は活用できないのか」
などの問題、課題が次々と生じています。
ウッドショックによって、今後、頻発する恐れがあるのが、木材の仕様や工期、価格の変更に伴う建て主や発注者とのトラブルです。
ウッドショックは、この数十年の間に2回起きており、今回が3回目です。
ウッドショックは、木材関連企業や住宅会社等の経営リスクの危険度が最大級に高い「有事」です。
ウッドショックによる価格高騰や納期遅延も問題ですが、最も深刻なのは「工期遅延による住宅・建設会社の倒産リスク」です。
まず着工できない案件が続出しますので、資金繰りがうまくいかない住宅・建設会社にとっては現金の不足が起こります。
着工している案件に関しても、基本的に工事費の支払いは出来高払いとなっていますので、同様に資金ショートの可能性が高まります。
金融機関がすぐに事業資金を融資してくれる会社ならよいですが、融資審査などで時間がかかる会社の場合は、間に合わない可能性があります。政府や自治体の緊急融資策が取られたとしても、現金が振り込まれるまでにはそれなりの時間がかかりますので、結果的に支払いが間に合わず、経営破綻してしまう会社が発生するかもしれません。
住宅・建設会社としては、材料の数量確保の保証ができない現状を、早急に発注者に事情を伝え、部材・樹種の変更、納期の調整をお願いした上で、合意書等を交わす必要があります。
「材料が入らない(価格も納期もわからない)」事実は、優良な会社を追い込み、結果として発注者を苦しめます。
今は出来る限りの対策をして事態の進展を待つしかありません。
今回のウッドショックの原因は日本の買い控えから始まった
コロナ禍の影響によって、世界中で建築需要が高まってきています。各国が金融緩和策を講じていることも背景にあります。
今回のウッドショックの主な原因は、下記の3点と言われています。
・原因1:アメリカの木材市況の高騰
第3次ウッドショックの根底には、米国における住宅着工件数の堅調な伸びがあります。
2015年ごろからミレニアル世代を中心に郊外型住宅の購入が増えていました。
コロナ対策として米政策金利を実質ゼロに誘導する政策が住宅ローン金利を引き下げたことで、着工件数の増加に拍車がかかりました。
アメリカでは在宅時間の増加によって都心の集合住宅から郊外の一戸建てへと移住する人が相次ぎ、住宅市場が好調に推移しています。
こうした影響を受けて木材価格が高騰しています。住宅需要やDIY需要の高まりを契機として、アメリカの木材需要が高まっています。
テレワークが浸透したことも郊外の住宅需要を刺激しました。まだまだアメリカの旺盛な住宅需要は続いており、木材の需給バランスが崩れつつあります。
・原因2:ヨーロッパ諸国の木材需要拡大
世界的な木造建築需要の高まりもあり、ヨーロッパでも木材需要が高まっています。CLT構法などを活用しての木造建築の建設が増えています。
コンテナ不足に直面したヨーロッパの集成材メーカーは陸路を利用して、ヨーロッパや中東へと集成材を輸出し始めています。
足元ではコンテナ不足によってヨーロッパからの集成材が日本に入ってこないという状況が表面化しています。
・原因3:中国の景気回復
中国の木材需要も増加しています。中国の木材需要については、アメリカ以上に今後の木材市場に大きな影響を及ぼすと考えられます。
中国は産業用丸太の世界最大の輸入国で、2018年には世界の産業用丸太の43%を輸入していました。
コンテナ不足の大きな要因が、いち早くコロナ禍から脱出した中国がコンテナを買い集めていることにあるとも言われています。
・木材の「買い控え」
今回の「第3次ウッドショック」は、世界的な木材需要の増加に伴い、2020年12月頃の木材相場の上昇に端を発しています。
木材価格が上昇する傾向が見られましたが、日本の商社などのバイヤーが「いずれ相場は戻る」と判断して、買い控えをしたようです。
1980年以降は木材の世界市況が比較的安定してこともあり、そのような判断になったと推察されます。
その結果、日本が購入しなかった木材が他の国に販売されることになり、日本の輸入量が大きく減ってしまったのです。木材を輸送する時間や製造期間が約3ヶ月ほどかかることから、2021年3月・4月頃から急激に木材が不足する事態となりました。
2021年に入っても木材価格の上昇は続いています(2021年5月段階)。こうした変化に気づいた日本の商社などのバイヤーも、価格が高くなった相場の中で木材を購入せざるをえませんでした。
木材の世界市況の展開は、誰にも予想できません。推移を注意深く見ていくだけです。
ただ、材木先物の相場はヒントになります。現在の日本の流通価格は相場から輸入日数を計算して2〜3か月遅れとなりますので、ある程度の予測は立てられることになります。
ウッドショック前の世界と日本の木材マーケット
北米材の需給が世界的に逼迫し、先物価格が上昇を続けるなか、追い打ちをかけたのが中国の経済回復などに伴う木材需要増です。
さらには世界的なコンテナ不足と、日本向けの北米材と欧州材が原材料(原木やラミナ)もろとも供給不足の状態に陥りました。
世界の木材消費量は2010年比で2018年が約1.2倍になるなど、もともと増加傾向にありました。
その中で新型コロナウイルスが猛威を振るいます。感染拡大の収束はまだ見通せないものの、ここにきて木材の需給バランスが大きく崩れる事態が起きています。
世界的な木材需要は増す一方ですが、十分に供給できない事情があります。コロナ禍で労働者が減って伐採が思うようにいかず、製材工場の稼働率は下がっています。
新型コロナウイルスの影響により、労働者が不足し、港が影響を受け、世界的にはコンテナと船舶が減少し、海上輸送が滞っています。
2021年3月に発生したスエズ運河での大型コンテナ船の座礁事故も、今回の混乱に拍車をかけました。
日本では人口減の影響などで2020年の新設住宅着工戸数は4年連続の減少となりました。
需要が鈍いとみた木材業界は、2020年は木材の輸入量を絞りました。
供給不足が最も深刻なのは、梁(はり)に用いる集成材と製材です。もともと輸入材の占める割合が高く、国産材の生産量が限られている部材です。
梁は、構造計算にも関係する部材なので、設計上も代替が容易ではありませんので、混乱に拍車をかけています。
海外で生じたウッドショックでなぜ日本の木材業界が影響を受けるのか?
2021年になって需要の回復を見込み輸入量を増やそうとするも、コロナ禍で国際市場は平静さを失っていました。「輸入小国」である日本への対応は冷たいものでした。
もともと日本は木材の品質にうるさく、寸法体系も複雑で輸出国にとっては面倒な取引先でした。少なくなったパイを奪い合う中で「日本は買い負けた」というのが事実です。
そして「第3次ウッドショック」が起こりました。
日本で使用する木材は、輸入材が6割を超えています。
品薄の中で少しでも量を確保するためには、値上げを受け入れるしかありません。
ウッドショックの影響は大きく、住宅・建築会社からは
「木材が調達できない」
「工期が遅れる」
「収益を圧迫する」
と悲鳴があがっています。
事業者の視線は当然、国産材に向かいます。
林野庁によると2019年の木材自給率は37.8%です。2011年から9年連続で上昇しており改善傾向にあります。
しかし、国産材はバイオマス発電やパルプでの需要も多いため、住宅建材として使う木材は依然として輸入に頼らざるを得ません。
日本は林業従事者の高齢化が進行しているなどの課題を抱えており、急な増産に対応できていません。コロナ禍を克服した中国や米国が景気浮揚策としてインフラ整備を打ち出せば、国際的な木材価格が一段とつり上がる可能性もあります。
デフレで木材価格を抑えてきた日本市場は、世界から見切りを付けられてしまうかもしれないリスクを抱えています。
ウッドショックが日本の住宅業界に与える影響
2020年の国内の新設住宅着工戸数は81.5万戸で、木造住宅は約6割を占めます。
木造住宅の主な工法には、在来工法(軸組構法)やツーバイフォー工法(枠組壁構法)、木質プレハブ工法などがあります。このうち8割近いシェアを持つ在来工法は、柱と梁を組んで家の骨組みをつくるものです。
スギやヒノキなど国産材だけで家を建てる住宅会社もありますが、特に梁は高い強度や多様な寸法が求められるため、ベイマツ製材やレッドウッド集成材などの輸入材を使う場合が多いのが実情です。
「柱は国産材に代替できても、梁は難しい」のが現実です。梁を輸入材から国産材に変更すると必要な強度を満たすために寸法が大きくなり、設計や見積もりに影響が出かねないからです。
木造住宅の建設費用のうち、木材の価格は一般的に1割程度といわれています。木材価格の上昇分を単純に転嫁できたとすると、建設費用は数十万円単位でアップする可能性があります。
住宅業界の担い手は幅広く、大工や職人、専門工事会社、建材・設備会社などにもショックが波及するかもしれません。
なかでも危機感を募らせているのは、ローコスト住宅が主力の住宅会社です。木材価格の上昇分を販売価格に織り込めば、ローコストといいづらいからです。
財務体力が弱い会社ほど厳しくなるのは間違いないと言えるでしょう。
ウッドショックが大規模木造に与える影響
ウッドショックは近年増えてきた中・大規模木造の普及にも水を差す格好になります。
中・大規模木造は、住宅よりも使用する木材量が多く工期も長いです。
木材販売会社やプレカット会社では、限りある木材の販売先を付き合いの長い住宅会社等を優先せざるを得ない状況となることが予想されます。
鉄筋コンクリート造や鉄骨造がメインで木造の実績が少ない建設会社は不安感が強くなります。
公共建築物等においては、県産材など地域材に限定した発注条件があり、森林組合などと調整済みで丸太を確保しているならまだしも、これから木材を調達するプロジェクトは楽観できません。今は数週間後でさえ読めないので、数カ月後や数年後の長期契約を結ぶのはとても困難な状況です。
こうした状況下で木材の価格が値上がりしています。今の状況を考慮すると、さらに価格が上昇する懸念があり、先が見えない状況がしばらく続きます。
さらに、材料調達の多くをヨーロッパに頼る国内のプレカット工場では、調達不足のために新規の受注を止めざるを得ない状況も近づきつつあります。
こうなってくると、今後の建築市場への影響は避けられません。「受注しても着工できない」という状況が多発する懸念があります。
まとめ
今回のウッドショックの主なポイントは下記です。
・日本の木材自給率は約37%なので、輸入材に頼らざるをえない
・輸入材の価格は、世界の木材市場の相場に左右される
・世界の木材市場の相場は安定していたが、今回は急激な価格上昇に対応できなかった
今回のウッドショックは木材関連企業や住宅会社等の経営リスクの危険度が最大級に高い「有事」です。
「材料が入らない(価格も納期もわからない)」事実は、優良な会社を追い込み、結果として発注者を苦しめます。
今は出来る限りの対策をして事態の進展を待つしかありません。
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