大規模木造における耐久性に関する実務ポイント
大規模木造を建設する際に必ず考えておきたいのは「耐久性」へ配慮した設計、施工です。木の特性に関する対策や、点検・メンテナンスしやすい建築物にすることが、建物の維持管理や耐久性向上に大きく貢献します。耐久性に配慮して設計、施工された建築物を、定期的にメンテナンス等を実施することで、建築物の寿命が伸び、結果として発注者に貢献できます。
このコラムでは大規模木造における耐久性に関する実務的な重要ポイントをお伝えします。
<このコラムでわかること>
・大規模木造の耐久性が重要な理由
・大規模木造の耐久性の基礎知識
・大規模木造の耐久性の設計の考え方
・大規模木造の耐久性向上を実現する設計技術(配置計画編)
・大規模木造の耐久性向上を実現する設計技術(平面計画編)
・大規模木造の耐久性向上を実現する設計技術(断面計画編)
・大規模木造の耐久性向上を実現する設計技術(維持管理編)
・大規模木造で必須な耐久性向上の設計テクニック
・まとめ
大規模木造の耐久性が重要な理由
木造建築の建設範囲は戸建住宅にとどまらず、民間、公共を問わず、大規模木造(非住宅の用途)にも広がっています。
大規模木造に対する要求性能やデザインは多様化し、 使用する材料や工法も多岐にわたっています。
一方、木造を含む建物の耐用年数(寿命)については、地球環境や資源エネルギーの観点などから、ますます長く使い続けることが求められています。
建築物の耐用年数を長く維持するには、機能的な耐用年数を長くすることが重要ですが、 それを可能とするためには構造躯体を物理的に長期間維持することが大前提になります。
木造建築物の用途が広がると、 防耐火の問題、遮音の問題など新たに検討すべき性能課題が出てきますが、 それにともなって構造躯体に関わる耐久性向上措置も影響を受けるようになります。
加えて、 木造建築物の耐用年数を長く維持するには、 建物使用段階における維持保全の問題が重要になります。
これは建物の維持費の多寡にも強く関わる問題で、 設計時に維持保全費用を安く抑える仕様とすること、 また、維持保全が容易に行える仕組みを作りこんでおくことが、 今後の木造建築物の耐久設計には求められます。
関連記事:木造化が必須な時代に!発注者向け大規模木造のメリット解説
大規模木造の耐久性の基礎知識
木材は、天然素材(生物体)であり、その特性を正しく理解することが大規模木造の実務には求められます。
木材の耐久性を考える際のキーワードは下記です。
・生物劣化
・水分
・気候
・維持管理
建物の耐久性向上には、「設計」「施工」「使用・維持管理」という3つの要素を適切にコントロールすることが重要になります。
正しい知識で設計しているか、設計内容を正しい施工で実現できるか、建物使用開始後に定期的に点検、メンテナンスを実施しているかなどがポイントになります。
大規模木造の耐久性向上に措置が必要になる部位・部材の範囲は3つの要素に分けられます。
・構造的に重要な部材
・劣化しやすい部材
・点検・メンテナンスに困難な部材
大規模木造の耐久性向上における設計の基本原則は、下記の2点を両立させることです。
1.木質構造材の耐久性能を確保する基本は、「材料そのものを耐久性の高いものにする」
2.材料の耐久性能を低下させる原因となる「水分・湿分を長期間継続的に作用させないディテール」を作り込むこと
大規模木造の耐久性の設計の考え方
大規模木造の設計で耐久性に関して注意するポイントには、構造的に重要な部材、腐りやすい部材 (生物劣化被害を受けやすい部材)、メンテナンス困難な部材(点検を含む)などがあります。
その要因が複合的に重なる部分については、 特に耐久性を考慮した設計をすることが重要となります。主なポイントは下記です。
⚫️建物に作用する各種劣化要因の種類と程度を推定し、 その建物の目標とする耐用年数が十分確保できるように設計する。
⚫️建物各部に水分や湿分の侵入や滞留が起こらないよう に、日照、通風、換気、防水、雨仕舞、 防湿など十分注意して設計する。
木造建築物の耐久性能を確保する基本は、材料の耐久性能を低下させる原因となる水分・湿分を、 長期間継続的に木部に作用させないディテールとすることです。
この時、何らかの故障あるいは許容限度を越える事象が生じた場合、二重、三重に水分・湿分の作用・挙動をコントロールする予防策が組み込まれていることが必要です。
また、 構造材料に生じている何らかの危険な事態を検知し、場合によりそれを容易に補修できることを支援する予防策を備えていることも重要なポイントです。
このような構造面からの各種対策をとったとしても、施工の良し悪しや建物の使用方法、 維持管理の程度、あるいは偶発的な事故、 瑕疵、 災害などによって、 建物は長い使用期間の中で思わぬ故障や不具合を抱え込むことが少なくありません。
耐久性向上には、材料のもつ耐久性能の確からしさが重要になります。
高耐朽樹種の心材部分を用いた製材あるいは集成材や、防腐処理木材、すなわち防腐剤を加圧注入処理した加圧式保存処理材(製材あるいは集成材)があります。
大規模木造の耐久性向上のためには、万が一の事態に対する対策を考えておく必要があります。
関連記事:中大規模木造を長持ちさせるには腐朽対策とメンテナンスが必須
大規模木造の耐久性向上を実現する設計技術(配置計画編)
大規模木造の耐久性向上に関しては、建物の周辺環境が、建物の耐久性能確保上、有利かどうかと大きく関係しています。
建物の周辺環境は、敷地の持つ条件と、 敷地への建物の配置計画によって左右されます。
下記の条件でも大きく異なります。
・建築地の地域の気候・地域特性(気温、湿度、日照時間、風雨 ・ 降雪量、 卓越風向等)
・局地的気象条件(周辺樹木や地形による建物周りの風雨の流れ、湿度勾配等)
地域の気候特性との関係では、 例えば、強風をともなう多雨地域では、単に建物自体だけで雨水対策を取るのでは不十分であり、幾つかの段階的な対策をとるのが普通です。
建物外壁や屋根、開口部への雨水の作用を緩和することができ、 劣化につながる水分の躯体への浸入を抑制することが可能となります。
同様に多雪地域では、 雪囲いを建物の周囲、 特に卓越風向の方向に設け雪が直接開口部や外壁面に付着するのを防ぐ工夫をしています。
このような自然環境に対する構えは、特殊な地域だけがとるべきことではありません。
一般の気候が比較的穏やかな地域でも、必ずその地域の卓越風向がありますので、それを意識して植裁や床下換気口、 開口部の位置などを決めたいものですし、 特に吹き降りの時の卓越風向を考慮することは、建物配置を計画する上で重要になります。
また、局地的な気象条件との関係では、隣家との距離が極端に近かったり、 壁面に常に陰を作るように植裁が植えられていたりする場合には、壁に作用した水分が乾燥しにくい状況が継続して、 壁仕上げ材や構造体が劣化しやすい環境が生まれてしまいます。
大規模木造の耐久性向上を実現する設計技術(平面計画編)
大規模木造の耐久性向上に関しては、建物の平面計画も劣化のあり方に密接に関連しています。
複雑で入り組んだ平面形状だと、 特に外壁入り隅部で湿気が滞留したり水分が乾燥しにくくなったりして、外壁、 土台回りなどに劣化が発生しやすい環境が形成されやすくなります。
また、 建物平面形状の複雑さはそのまま屋根の複雑さにつながります。
複雑な平面形状をもった屋根では、 各所に谷部が形成されるとともに、確実な防水施工が難しい箇所も発生しやすくなります。
そのような箇所から小屋裏や壁体内への漏水の可能性が高くなるので注意が必要です。
設計時に施工のしやすさを考慮しておくと施工ミスによる劣化を防ぐことに繋がります。
大規模木造の耐久性向上を実現する設計技術(平面計画)の配慮したい点は主に下記です。
・シンプルな屋根形状とする
・コンクリート打設のしやすい基礎形状とする
・外壁の 凹凸が少なくなる平面計画
大規模木造の耐久性向上を実現する設計技術(断面計画編)
大規模木造の耐久性向上に関して、建物各部の高さ、 軒の出、 屋根勾配などは建物の断面計画と関連し、 結果的に劣化発生の問題と絡んできます。
例えば、道路面と敷地との高さ関係、敷地地盤面と床下地盤面(土間コンクリート面)との高さ関係などは、建物内への雨水浸入との関係で重要です。
周辺地盤面の方が高くて、 雨水が床下に頻繁に浸入する結果、 床束や土台が腐朽した建物も少なくありません。
同様に雨が降るたびに雨水が建物側に流れてくる結果、 床組や軸組下部が劣化した例も見られます。
基礎立ち上がり高さとともに1階床高さを十分高くしておかないと、 雨水の跳ね返りや地盤からの湿気などにより土台や床組が劣化を受けやすくなります。
屋根回りでは、軒の出が小さいと外壁面に雨水が掛かりやすくなりますが、近年は軒の出がまったくない建物も珍しくありません。
このような建物では、経年に伴って外壁仕上げ面にひび割れや防水性能の低下があった場合には、壁の高い位置から雨水が浸透し軸組の広い範囲を劣化させる可能性があります。
屋根勾配に関しては、材料別に標準的な勾配が決まっていますが、地域によってはよりきつい勾配が求められることもあります。
勾配が足りないと、 台風時の雨水の漏れや軒裏への雨水の回り込みなどが生じ、 小屋組材の劣化や垂木先端部あるいは軒先回りの劣化に繋がることがあります。
断面計画と劣化との関係でもう一つ重要な問題として、 床下、壁内、小屋裏の建物内換気、 通気の問題があります。
建物内の各部に滞留した湿気を、効果的に外部に排出するディテールを徹底することが重要です。
大規模木造の耐久性向上を実現する設計技術(維持管理編)
大規模木造の耐久性向上に関しては、躯体の耐久性を維持して建築物を長く使えるようにするためには、維持保全が重要となります。
建物が長寿命になればなるほど維持保全の期間は長くなることから、維持保全の手間とコストのかかる材料を劣化しやすい箇所に使用しないなど、維持保全コストを抑える設計が重要となります。
足場などを架けなくても高所の維持保全がしやすいように、予めキャットウォークを要所に設けておくことなども、 持続的で確実な維持保全を可能とする方法の一つです。
腐朽とともに蟻害は木造躯体に致命的な損傷を与える劣化現象ですが、 細部の納まりがシロアリ被害の発見が難しい納まりとなっていると、大規模な修繕などが必要となる場合が多くなります。
基礎、 土台周りの納まりを蟻道の発見がしやすい形に工夫することも、 木造建築物のメンテナンスを考える上で重要なポイントです。
構造部分の腐朽や、床・腰壁などの内装部分のシミ・傷などの「劣化・老朽化」を防止する維持管理は可能です。
構造部分については、雨水や結露が建物内・壁内・建物周辺の木材へ作用することを減らす工夫のほか、点検しやすい仕上げ(点検口設置など)にして劣化の早期発見で対応できます。
また、建設費と維持管理費のトータルコストの面から、交換や削り出しがしやすい仕上げとすることを、設計段階で盛り込んでおくことも有効です。
大規模木造で必須な耐久性向上の設計テクニック
大規模木造で必須な耐久性向上の実務的に重要なテーマは主に下記です。
・木材の生物劣化への対策
・外壁通気構法の採用
・基礎まわりの対策
・屋外使用木材の変色への対策
<木材の生物劣化への対策>
日本の高温多湿で雨の多い気候は、腐朽菌やシロアリの活動、繁殖にとって好適な環境であることから、木材建築に発生する木材の生物劣化現象への対策が求められます。
1.材料による対策:劣化因子ごとに木材の薬剤処理や建築的な対応を併用
2.構法、維持管理による対策:劣化因子ごとに木部に水分・湿分を作用させない構法を実施
3.耐久性の高い木材を使用する:心材、辺材の特性を理解して材料を選定
4.壁面の雨水の進入対策:軒の出による雨水対策など、木部を地面から離す構法等を実施
5.水分の侵入および排出対策:木部の小口に水が触れない工夫等を実施
「木は水に弱い」ということを前提に、いかに水と触れさせないように設計・施工することが重要です。
<外壁通気構法の採用>
大規模木造の耐久性確保には外壁通気構法が必須となります。
外壁通気構法とは、外壁材と防水紙の間に通気層を設け、発生した水分を屋外に排出する仕組みです。
外壁通気構法の目的は下記です。
1.雨水の侵入を抑制
2.湿気を排出し、壁体内の結露を抑制
3.夏季の遮熱効果
外壁通気構法の注意点としては、空気が適切に流れる必要がありますので、屋根面や壁体面で「吸気」と「排気」が可能になる建築ディテールが重要です。
通気経路を適切に確保し、結露対策等を正しく実施することが重要です。
<基礎まわりの対策>
大規模木造の耐久性向上にはシロアリの特性を理解して対策を講じる必要があります。
代表的なのは、地下シロアリ(地中で生活)と乾材シロアリ(木材の中で生活)です。
代表的な方法が土中・基礎周りの対策です。溶剤による処理を実施し、地下シロアリが地中から基礎に侵入できない対策を徹底することです。
<屋外使用木材の変色への対策>
大規模木造の耐久性向上には、屋外使用木材の変色を理解して対策を講じる必要があります。
屋外使用木材の変色は、下記のように3つのステップで進行します。
・紫外線による濃色化(木が焼ける)
・紫外線で分解した成分の雨水による溶出(木が白っぽくなる)
・黒酵母菌の繁殖や汚染物質の付着による黒色系の汚染(木が灰色化する)
外壁材などに木材を使用する場合には、毎年の点検と定期的な塗り替えが前提となります。
まとめ
木造で施設を計画する際には、日本の気候を考慮した耐久性への対策が求められます。
木材の特性をふまえた設計・施工を行ない、維持管理やメンテナンスに配慮した建築物とすることで、耐久性が向上し、結果として長持ちする木造建築となります。
NCNは構造設計から生産設計(プレカット)までのワンストップサービスが強みです。計画段階からご相談いただくことで、木構造デザインの木造建築に関する知見をうまく利用していただき、ファーストプランの段階から構造計画を相談いただくことで、合理的に設計を進めていただければと考えております。
集成材構法として実力・実績のある工法の一つが「耐震構法SE構法」です。SE構法は「木造の構造設計」から「構造躯体材料のプレカット」に至るプロセスを合理化することでワンストップサービスとして実現した木造の工法です。
また構法を問わず、木造の構造設計から構造躯体材料のプレカットに至るスキームづくりに取り組む目的で「株式会社木構造デザイン」が設立されました。構造設計事務所として、「⾮住宅⽊造専⾨の構造設計」、「構造設計と連動したプレカットCADデータの提供」をメイン事業とし、構造設計と⽣産設計を同時に提供することで、設計から加工までのワンストップサービスで木造建築物の普及に貢献する会社です。
株式会社エヌ・シー・エヌ、株式会社木構造デザインへのご相談は無料となっておりますので、お気軽にお問い合わせください。