「大規模木造建築を取り巻く世の中の状況」セミナーレポート
国内で大規模木造建築が普及しつつあります。発注者はSDGsやESG投資など環境重視の姿勢を強めており、大規模な建築での木造の採用例が増えてきます。木造が住宅分野だけではなく、教育施設や福祉施設、商業施設といった非住宅用途ですそ野が広がっています。木造で非住宅建築を実現するためには、計画立案や構法、建材の選択などが重要なポイントになります。
NCNは、「大規模木造オンラインミニセミナー」を2020年10月より開始いたしました。大規模木造に関するさまざまなテーマをオンライン形式で皆様にお届けするセミナーです。興味があるテーマのセミナーを自由に選択していただき、受講することが可能です。本記事では2020年10月27日に開催されたオンラインセミナー「大規模木造建築を取り巻く世の中の状況」の内容をダイジェストでお伝えします。
<このコラムでわかること>
・木造普及の起点「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」以降の変化
・データで見る木造非住宅市場の現状
・大規模木造の更なる普及のポイントは「構造計算」と「防耐火設計」
・大規模木造の構造設計と生産の課題
・大規模木造専門の構造事務所「木構造デザイン」
・まとめ
木造普及の起点「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」以降の変化
木造普及の起点となったのは「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」です。低層の公共建築物は原則として木造化を図るというのが主な内容ですが、その動きが民間建築物への木材利用の促進につながることが期待されています。そして「SDGs」等への関心の高まりもあり、「木造化」の流れがより加速しています。
「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」施行後の主なポイントは下記の4点です。木造を普及させるために、さまざまな施策が実施されています。
・国土強靭化基本計画
・建築基準法の改正
・CLTをはじめとした新たな木質材料の普及
・準耐火、耐火構造への業界各社の取り組み
国土強靭化基本計画とは、大規模な自然災害などに備えるため、事前防災や減災、迅速な復旧・復興につながる施策を計画的に実施して、強くてしなやかな国づくりや地域づくりを進める取り組みのことです。
近年の建築基準法の改正は、木造の更なる普及のために、中高層化、耐火・準耐火建築物等の基準を緩和することで、主に非住宅建築の木造化が実現しやすくなっています。
関連記事:木造の準耐火建築物の可能性が広がる!改正建築基準法の解説
関連記事:準耐火の適用範囲拡大は中大規模木造の追い風に!改正建築基準法の解説
CLTをはじめとした新たな木質材料の普及は、木造建築の可能性を広げます。CLTはCross Laminated Timber(クロス・ラミネイテッド・ティンバー)の略称で、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料です。特徴として、工場内で一部の材料を組み立ててから現場に搬入するプレファブ化により、施工の工期短縮が期待でき、接合具がシンプルなので熟練工でなくとも施工が可能です。
準耐火、耐火構造への業界各社の取り組みとしては、建築基準法の改正に伴い、耐火建築物や準耐火建築物の仕様の選択肢が増えたことによる新商品や既存商品の改良が行われています。
データで見る木造非住宅市場の現状
実際に木造建築は増えています。公共工事(特に低層)については、木造化率が増加傾向にあります。用途別では、農林水産業用(主に畜舎)の建築物の木造が増えています。教育・学習支援用の建築物の木造化も増加傾向です。
非住宅全体の着工数は、2009年に減少しましたが、以後は増えつつあります。それに伴い木造率も増加傾向にあります。(特に、事務所・病院・学校校舎が顕著)
2009年のリーマンショック以降、工事予定金額はSRC造・RC造・S造が大きく上昇していますが、木造の工事単価はほぼ横ばいで推移しているのが特徴です。
関連記事:店舗、事務所、倉庫には鉄骨造より木造が「安い、早い、うまい」理由
大規模木造の更なる普及のポイントは「構造計算」と「防耐火設計」
大規模木造でまず押さえるべきポイントは、「構造計算」と「防耐火設計」です。
大規模木造の実務で重要となるのは、建築の構造の安全性を計る「構造計算」です。延べ面積が500平方メートル以上の木造建築には、RC造・S造と同様に「構造計算」を行い、すべての項目で基準値以上の安全性の検証が求められています。
大規模木造の構造設計においては、意匠計画と並行して構造計画を検討することが重要です。構造計画には、工学・技術的な側面と法令上の基準をクリアすることの両立が求められます。
関連記事:中大規模木造に適した技術と自由があるSE構法の構造設計
従来の建築基準法では、最高高さが13mを超える、もしくは軒高が9mを超える建築物は、耐火建築物にする必要がありました。近年の建築基準法の改正では軒高の制限が解除され、最高高さ16m以下であれば、その他の建築物として設計できるようになります。
今後、防火地域、準防火地域以外で大規模木造を計画する場合、これまでのような防耐火要求を満たす必要がなくなることから、設計の自由度やコストパフォーマンスが向上します。
関連記事:木造でも高さ16m以下であれば防耐火要求無し!改正建築基準法の解説
大規模木造の構造設計と生産の課題
大規模木造の構造設計と生産の主な課題は下記です。
<構造設計>
1.構造設計が必要な用途、規模に対して構造設計者が不足
木造の構造設計、構造計算に対応できる構造設計者は、不足しています。今までは「木造=住宅」という時代が長かったこともあり、大規模木造の構造設計業務に対応できる構造事務所は限られています。建築士の高齢化の問題もあり、年々対応できる構造設計者が減少しているのが実情です。
2.構造設計者が選択、納まり検討できる規格化された接合部がなく、加工段階で仕口が納まらない
木造の接合部で使用できる納まりは、一般的に流通しているもので実現できることは限定されます。構造設計者が独自の接合部ディテールを考案して図面化しても、プレカット加工や現場での施工ができないことが多々あります。
3.構造図面に調達困難な材料が指定されている
木造には産地があり、生産する工場によって取扱内容も変わります。RC造やS造のように断面寸法や強度を変えることで、建築を支えることが難しいこともあります。構造計算的に厳しい設計内容の場合、木材の中で強度の高い材料が設計図書で指定されていることもありますが、そうした材料は調達や納期、コスト等の問題で使えないことも多々あります。
<生産>
1.構造図面を参考にCAD入力をしないと精度の高い見積りができない
大規模木造の実務で大きな問題となるのが、設計内容と積算内容の整合性です。構造設計で作成している図面情報と、生産設計(プレカット)で作成する図面情報の整合性の精度が高くないと、構造材コストを正確に積算することができません。
2.プレカット加工機械のキャパはあるが、加工図が書けない
プレカットの加工図作成を担うのはそれぞれの会社に在籍する「CADオペレーター」ですが、設計内容の難易度によっては対応できないこともありますので注意が必要です。
3.受注後に加工ができないことが後で顕在化する
木造のプレカット加工は基本的に全て機械で対応します。特殊な納まりなどの場合のみ、手加工というかたちで人的な対応を行ないます。プレカット工場の加工機はそれぞれ加工できる技術・能力は決まっておりますし、手加工にも限界があります。設計者側で考案した構造ディテールが実現できないこともありますので注意が必要です。
4.製造工場の能力と品質レベルがよく分からない
全国に点在するプレカット工場には、「住宅向け」「非住宅向け」「住宅・非住宅の両方ともOK」など、会社の規模や実力に応じて違いがあることも事実です。設計内容に応じて、対応できるプレカット工場を探して事前に相談するなどの対応を行わないと、見積りや加工段階で問題が生じますので注意が必要です。
5.ゼネコンと工務店の中間領域の規模が多く、施工が不得手
一般的に大手建設会社や地場の建設会社では、木造の仕事を受注することが比較的少なく、大規模木造に不慣れな会社が多いのが実情です。一方で工務店は、木造住宅の仕事が中心のため木造の施工に必要な大工さんや職人さんを手配して施工することができます。建物規模に応じて施工者選定を行ない、必要に応じて元請けの建設会社に「建て方施工(あるいは木工事全般)」を担う工務店がサポートに入ることも検討しなくてはなりません。
「大規模木造を計画したいけれど、構造をどこに相談してよいかわからない」ことが、大規模木造普及のネックになっています。その担い手となるのが、株式会社エヌ・シー・エヌの特建事業部と、株式会社木構造デザインです。
大規模木造専門の構造事務所「木構造デザイン」
株式会社木構造デザインは、耐震構法SE構法を提供する株式会社エヌ・シー・エヌと、木構造CADで国内トップシェアのネットイーグル株式会社との合弁会社として設立されました。
木構造デザインは、大規模木造の設計・生産に関する課題解決を目指し、大規模木造を普及する鍵は構造設計と生産設計の両立を考えて設立した会社です。構法を問わず、すべての大規模木造についてワンストップで支援することを目指しています。
木構造デザインは、大規模木造専門の構造設計会社として、
・「⾮住宅⽊造専⾨の構造設計」
・「構造設計と連動したプレカットCADデータの提供」※
をメイン事業とし、構造設計と⽣産設計を同時に提供することで、設計から加工までのワンストップサービスで木造建築物の普及に貢献します。(※CADデータはネットイーグル社製のみの対応となります)
木構造デザインは、SE構法で経験してきたシステム構築、人財、ネットワークをノウハウとしてうまく活かしながら、ニュートラルな立場で工法を限定しない大規模木造の構造設計や生産設計を提供できることが強みです。
大規模木造の計画を進める中で重要なポイントの一つにプレカット工場の選定があります。適切なプレカット工場を選択することで、計画をより有利に進めることが可能となります。
木構造デザインでは「大規模木造プレカットネットワーク」を新たに立ち上げました。大規模木造プレカットネットワークとは、設計者や施工者にとって適切なプレカット工場を見つけることができる、日本初の大規模木造専用のマッチングプラットフォームです。
計画に適切なプレカット工場と合わせて、幅広い工法に対応できる構造設計者を選ぶことも重要です。株式会社木構造デザインでは、材料手配・プレカットを考慮した構造設計を提供しています。
まとめ
このオンラインミニセミナーは連続企画です。毎回、テーマを変えて大規模木造に関する情報提供をさせていただきます。
本セミナーには、設計事務所様や建設会社様など、大規模木造に関心のある建築実務者の方に多数ご参加いただきました。これから大規模木造に取り組む建築実務者の皆様に対して、NCNから特にお伝えしたいことは下記です。
・大規模木造に取り組むことは、決して難しいことではない
・大規模木造の実務を合理的に進めるには、木造に詳しいパートナーを選ぶ必要がある
NCNが提供するSE構法は木造建築のワンストップサービスが強みです。計画段階からNCNにご相談いただくことで、NCNが持つ木造建築に関する知見をうまく利用していただき、ファーストプランの段階から構造計画を相談することで、合理的に設計を進めていただければと考えております。
集成材構法として実力・実績のある工法の一つが「耐震構法SE構法」です。SE構法は「木造の構造設計」から「構造躯体材料のプレカット」に至るプロセスを合理化することでワンストップサービスとして実現した木造の工法です。
また工法を問わず、木造の構造設計から構造躯体材料のプレカットに至るスキームづくりに取り組む目的で「株式会社木構造デザイン」が設立されました。構造設計事務所として、「⾮住宅⽊造専⾨の構造設計」、「構造設計と連動したプレカットCADデータの提供」をメイン事業とし、構造設計と⽣産設計を同時に提供することで、設計から加工までのワンストップサービスで木造建築物の普及に貢献する会社です。
株式会社エヌ・シー・エヌ、株式会社木構造デザインへのご相談は無料となっておりますので、お気軽にお問い合わせください。