ウッドショックが顕在化させた木材供給リスクと国産材の課題
木材の需給が逼迫して、価格高騰、納期遅延等が発生する「ウッドショック」が起こっています。輸入材が厳しいなら国産材を活用するという発想もありますが、国内の木材生産に従事する人手は限られており、すぐに増産はできないのが実情です。このコラムでは、ウッドショックが顕在化させた木材供給リスクと国産材の課題について詳しく解説します。(本記事は2021年5月末段階での情報です。状況の変化が予想されますので、ご注意をお願いします。)
<このコラムでわかること>
・ウッドショックと国産材の関係性
・ウッドショックにより顕在化した課題:国産材の現状
・ウッドショックが起きても変化しない?国産材の抱える課題
・ウッドショックの理由となった輸入材偏重の木造
・ウッドショックが起きても変われない?国産材の悩み
・ウッドショック解決の鍵となる国産材活用は補助金頼み
・ウッドショックが変化の起点に。脱炭素社会における木造の重要性
・ウッドショックに強い国へ。国産材を増やすために必要なこと
・まとめ
ウッドショックと国産材の関係性
現在、住宅・建築業界、そして林業界では「ウッドショック」が起きたと大騒ぎになっています。
世界的に木材需要が伸び、その結果として木材価格が急騰したことが要因です。そこに海運業界のタイトな物流事情も加わりました。かくして世界中で木材の奪い合いが始まっています。
日本は木材の世界市況を見誤った部分もあり、買い負けした結果でもあります。木材需要の約6割を輸入材、特に米材や欧州材に依存しているだけに、日本国内は一気に木材不足に陥りました。
そこで焦って国産材の調達に走るものの、なかなか増産されずに国産材も値上がりしています。
現在、国内の森林は資源的には充実しており、山には利用可能な大きさに育った木がたくさんあります。
ただ、木材生産に従事する人手は限られており、急激に木材需要が増えたからといって、すぐに増産するような態勢は取れないのが現状です。
今回のウッドショックは、木材供給リスクと国産材の課題を顕在化させました。
ウッドショックにより顕在化した課題:国産材の現状
日本の森林面積は国土の3分の2に及び、森林率は経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国で3番目に高い国です(2020年)。
そこで輸入材が厳しいなら国産材でとばかりに、国産材に注目が集まっています。
ところが、国産材への切り替えはスムーズに行われていません。
日本の森林は戦中・戦後に大量伐採されて荒廃しましたが、その後の植林で森林面積は年々増加しています。森林の4割を占める人工林は、いまや本格的な利用期を迎えています。
しかし森林が育つまで半世紀にわたって木材を輸入に頼ったため、木材の自給率は減少の一途をたどりました。底は2002年の18.8%です。以降徐々に回復し、2019年の自給率は37.8%となりました。
輸入材への依存は国内林業の産業化を遅らせました。林業従事者も長期にわたって減少し続けました。適切に管理されていない森林も目立つようになりました。
そのような状況の中では、国産材の供給を急に増やすような対応はできません。その結果、地域差はあるものの、輸入材に続き国産材でも木材不足や価格高騰を招いています。
ウッドショックが起きても変化しない?国産材の抱える課題
国産材に注目が集まる状況は、林業や木材業にとっては本来はビジネスチャンスです。しかし関係者から聞こえてくる声や、メディアで報道される情報は、ネガティブな反応が多いです。
「増産したいが、価格が急落したらどうするのか」
「設備投資しても、輸入材が再び台頭してきたら無駄になる」
「そもそも投資する資金がない」
などです。
今回のウッドショックを一過性とみるか長期とみるか、あるいは新しい供給体制の構築への入り口とみるか。林業界や木材業界は読み切れていないのが現状です。
国産材を扱う商社や製材工場に、これまで取引が全くなかった企業からの問い合わせが増えていると言われています。しかし、国産材の供給量が需要増に追いついていないだけでなく、中国などに輸出される量も増加傾向にあり、国産材であっても簡単には調達できない状況です。
国産材を扱う製材事業者なども、かねてから取引きがある企業に優先的に国産材を供給しており、急な要求には対応できていないというのが実情のようです。
以前から製材業者やさらに川上も山側の事業者との連携を進め、国産材の安定供給を実現するサプライチェーンを構築してきた住宅系の企業もありますが、ごく一部の会社です。
ウッドショックの理由となった輸入材偏重の木造
木造住宅、中・大規模木造の主要部材であるベイマツ平角・垂木、ホワイトウッド・レッドウッド集成材、ツーバイフォー住宅用のディメンションランバーといた輸入材は、現在(2021年5月段階)、軒並み入手困難になっています。
代替え品として国産材のスギ、ヒノキ、カラマツ製品への注文が殺到していますが、それらの国産材製品も絶対量は不足しています。
日本各地の製材工場、問屋、材木店では、従来からの取引先への納材を優先せざるをえない状況となっています。
今回の第3次ウッドショックは、輸入材に依存し過ぎた木造の材料供給リスクを顕在化させました。
2019年の木材需給表(林野庁)によると、日本で建築に使われている製材用材の自給率は約51%、合板用材の自給率は約45%です。
梁材は、国産材への仕様変更が最も難しい部材です。
国産材のマツやヒノキは、輸入材のベイマツやレッドウッドよりも曲げヤング係数などの部材強度が低いため、スパンを大きく飛ばすのが難しいからです。
木造の設計は、木材を「適材適所」で使用することが基本ですが、ウッドショックのような事態は、設計そのものに関わることになりますので、注意が必要です。
ウッドショックが起きても変われない?国産材の悩み
このウッドショックは、はからずも日本の木材業界の事情を浮かび上がらせました。
これまでも輸入材の供給が減少したことを受け、一時的に国産材へのニーズが高まり、価格が上昇したこともありました。ところが、輸入材の供給量が回復し、価格も安定すると、国産材の引き合いは減退、価格が急降下するということが何度も繰り返されてきました。
需給がひっ迫していない時でも、常に安い方を仕入れようとする需要者に常に翻弄されてきた経緯もあります。
その結果、木材業者は「いつまで高値が続くのかわからない」という不安にさいなまれています。
木材を山から出すには、行政手続き、機材や人員の手当てなどの手間やコストが発生します。そして国産材の価格が輸入材を下回らないと売れません。価格の変動が起きてしまうリスクを常に抱えているので、積極的に投資ができないのが実情です。
林業が盛んに営まれていた時代は、山間地域に多くの人が暮らしていました。農業をはじめとする他の仕事を主業としていても、山仕事に慣れている人が多くいました。
しかし、外圧に押されて国産材の需要が減少し、林業が長期にわたって低迷する中で、山間地域の社会の疲弊が進み、そうした即戦力になる人材はほとんどいなくなってしまいました。
今の林業には、正規で働いている人がほとんどで、繁忙期に人を集める対応ができないので、急な増産などには対応できないのです。
ウッドショック解決の鍵となる国産材活用は補助金頼み
林業界は伐採や搬出のほか、作業道を入れるのも補助金頼りが恒常化しています。しかし補助金の支出は年度で決まっていますので、急に増額はされません。
林業は市場原理ではなく、補助金の額で動いているという側面もあります。
山主、伐採業者、製材業者、合板業者などの連携ができていないことも課題です。それぞれの利害関係や、リスク分担等の議論が進まず、なかなか一致団結して増産に踏み切れない状況です。
今回のウッドショックにより、輸入材に依存しすぎるリスクの大きさは確実に露呈しました。
木材調達に多様性を持たせないと、今後も輸入材に翻弄され続けて、新たなウッドショックが発生するリスクを抱えます。
輸入材は「必要な物を、必要なときに、必要な量だけ」という木材業界の飽くなきニーズを満たしてきました。
しかし、木材は本来、森林に木を植え育て、伐採し、搬出、製材、乾燥、加工、流通と、長期にわたる計画的な生産体制が必要になるものです。
伐採した後も再び苗を植えなければ持続可能になりません。
日本の木材を活用することで林業の活性化を促し、木造住宅や中・大規模木造を建設するための安定供給体制を構築するため、国産材へのシフトをより強化していくことが求められています。
ウッドショックが変化の起点に。脱炭素社会における木造の重要性
国産材に注目が集まっている今は、林業を成長産業にする絶好の機会ともいえます。
森林大国の日本は、何といっても木材の供給地と需要地が近いです。トラックで数時間で運べる地域の経済圏を生かさない手はありません。
その実現のためには、地域ごとの林業や製材工場、木材販売会社、住宅会社などが信頼関係を築くことが欠かせません。住宅・建築業界が安定して需要をつくり、林業界や木材業界がそれに応えて安定供給で支える構図です。
森林は二酸化炭素を吸収し、森林からつくり出される木材は燃やさない限り炭素を貯蔵し続けます。
日本は2050年のカーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)、2030年度までに2013年度比で46%削減する目標を打ち出しています。
森林と木材の果たす役割は大きいです。国産材には輸入材の単なる代替ではなく、未来につながる価値を持たせる必要があります。
消費者も企業も、家計や事業活動につながる施策には注目します。木材を強く経済につなげるカーボンプライシング等は、無関心層が木材利用に興味を持つきっかけになる可能性があります。
身近に木材がない環境で育つと、木に対する愛着や意識は生まれませんし、材料への関心は持てません。特に非住宅建築に木材を使う取り組みの意味は大きいです。
木材活用の意義や方法を発注者に発信し、カーボンニュートラル実現の大きな目標に向かって取り組みを進めていくことが求められています。
関連記事:大規模木造とSDGs・脱炭素・ESG投資の相性が良い理由
ウッドショックに強い国へ。国産材を増やすために必要なこと
今回のウッドショックは、林業や建設業に携わる全ての人に、新しい木材供給体制を作り上げるため、新しいチャレンジに踏み出す事を求められているのではないでしょうか。
今回のウッドショックは、今までとは異なり、不足に陥った木材をカバーする代替の資源地は存在しません。頼れるのは森林大国でもある自国です。国産の針葉樹の活用が鍵となります。スギ、ヒノキ、カラマツなどを頼りに、徐々に海外調達から切り替えていくことです。
現在、40%に満たない木材自給率の中で、伐採や加工を本格化するには足りないインフラや産業人員、などの課題を、官民挙げて協力ながら作るしかありません。
世界的な木材市場については、中国などの需要増加によって日本市場の存在感が低下しつつあるという事実も突きつけられました。それだけに事業者にとっては、リスク回避という意味でも国産材に関するサプライチェーンを構築することが求められています。
今までのように過剰な価格競争を強いるようなサプライチェーンではなく、木材のサプライヤーと事業者が同じテーブルにつき、同じ目線で持続可能なサプライチェーンと森林経営を検討する時期に来ています。
また「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」は、低層の公共建築物は原則として木造化を図るというのが主な内容ですが、その動きが民間建築物への木材利用の促進につながることが期待されています。
そして「SDGs」等への関心の高まりもあり、「木造化」の流れがより加速しています。国内で「木をより積極的に使用する」ことが重要です。
関連記事:「大規模木造建築を取り巻く世の中の状況」セミナーレポート
まとめ
日本は先進国でも有数の森林保有国でありながら、木材自給率が低く、生産体制が脆弱であるため、輸入材の不足分を補えず、今回のウッドショックのような混乱に陥っています。
将来的には、木造住宅や中・大規模木造で用いる梁材や柱材などの部材を、国産材を使って安定価格で安定供給できる体制の構築こそが、ウッドショックのような木材供給リスクの再発防止のためには欠かせません。
NCNは構造設計から生産設計(プレカット)までのワンストップサービスが強みです。計画段階からご相談いただくことで、構造設計から材料調達までを考慮した合理的な計画が可能です。
集成材構法として実力・実績のある工法の一つが「耐震構法SE構法」です。SE構法は「木造の構造設計」から「構造躯体材料のプレカット」に至るプロセスを合理化することでワンストップサービスとして実現した木造の工法です。
また構法を問わず、木造の構造設計から構造躯体材料のプレカットに至るスキームづくりに取り組む目的で「株式会社木構造デザイン」が設立されました。構造設計事務所として、「⾮住宅⽊造専⾨の構造設計」、「構造設計と連動したプレカットCADデータの提供」をメイン事業とし、構造設計と⽣産設計を同時に提供することで、設計から加工までのワンストップサービスで木造建築物の普及に貢献する会社です。
株式会社エヌ・シー・エヌ、株式会社木構造デザインへのご相談は無料となっておりますので、ウッドショックでお困りの方もお気軽にお問い合わせください。