「大規模木造建築における工法選択」セミナーレポート
木造非住宅の普及に伴い、大規模木造建築の事例が建築系メディアに掲載されることも多くなりました。掲載される事例は、意匠設計はもちろんのこと、構造設計も素晴らしい内容のものが目立ちますが、斬新な設計を膨大なエネルギーとさまざまなプロセス等で実現した木造の「特殊解」が多いことも事実です。実際の社会経済活動の中で発注される建築のほとんどはスタンダードな建築物であり、さまざまな用途の非住宅建築をどのように木造で実現しやすくするかの仕組みやビジネスが求められています。
NCNは、大規模木造に取り組む設計者・施工者のために「大規模木造オンラインミニセミナー」を2020年10月より開始いたしました。大規模木造に関するさまざまなテーマをオンライン形式で皆様にお届けするセミナーです。興味があるテーマのセミナーを自由に選択していただき、受講することが可能です。本記事では2020年11月11日に開催されたオンラインセミナー「大規模木造建築における工法選択」の内容をダイジェストでお伝えします。
<このコラムでわかること>
・大規模木造の設計プロセスの課題。ポイントは適切な工法選択
・大規模木造の工法選択におけるメリット・デメリット
・大規模木造の工法解説
・大規模木造の工法と材料のコスト
・大規模木造の構造設計で知っておきたい壁量計算と構造計算の違い
・大規模木造の課題解決は木構造デザイン
・大規模木造専門の構造事務所である木構造デザインのサービス
・まとめ
大規模木造の設計プロセスの課題。ポイントは適切な工法選択
大規模木造を実際に設計するには、木造独自の設計プロセスを理解する必要があります。
公益財団法人 日本住宅・木材技術センターより発行されている「木でつくる中大規模木造建築の設計入門」に掲載されているチェックリストは、これから大規模木造に取り組む実務者には参考になる資料です。
大規模木造を手掛ける際に抑えておくべき主なポイントは下記となります。
・適切な工法選択
・木材、樹種の選定
・防耐火への理解
・接合部の選定
木材は、素材自体がエネルギー吸収する素材ではないので、接合部の特性をしっかり把握して設計することが重要です。
大規模木造の工法選択におけるメリット・デメリット
大規模木造の工法選択におけるメリット、デメリットは下記です。
<大規模木造の工法選択によるメリット>
1.経済合理性
大規模木造における課題として、鉄骨造やRC造に代わるものとして計画した木造建築物が、木造のメリットを活かした設計を行わず、構造的に特注材を多用したりすると、結果として割高になってしまうことです。大規模木造を適切なコストで実現していくためには、材料、部材寸法、接合部仕様などの基本情報を実務者が正しく理解して工法を選択することが大切です。
関連記事:中大規模木造の建設費の概要とコストを抑えるポイント
2.合理的な構造架構
大規模木造で採用される主な構法は、在来軸組構法や枠組壁構法(ツーバイフォー工法)、集成材構法等があります。工法ごとの特徴、メリット・デメリット等について正確に把握し、適材適所で構法を選択することが重要です。
3.設計と加工、施工の整合性
木材は自然材料で、その種類や性能には限界があります。ある木材をどこでどのように使うか、どのような大きさや長さまで加工可能か、どういった加工は容易でどういった加工は大変なのかといった情報も必要です。設計はできるがコストが大幅にかさむ、あるいは調達、納期等が実現不可能という事態を避けることが求められます。
<大規模木造の工法選択によるデメリット>
1.コストアップ
木を使うことを得意とする日本では、その文化や歴史ゆえに、構造躯体が木造であるべきだという理念が先行しがちで、「木を使っていること」を見せる点が重視されています。建物の用途や階数、スパンに応じて、適材適所で木造の工法を選択することで、木造のメリットを活かしながらコストを抑えることができます。
2.設計が成り立たない
例えば木造と鉄骨造では構造的な特性に大きな違いがあります。大規模木造の設計のポイントは木造で対応できるように工法の特性を考慮しながら「適材適所」で検討することです。下記のような大規模木造を検討する際には、計画の初期段階から構造設計者に相談することが重要です。
・スパンがとても大きい大空間(大規模な商業施設など)
・構造の階高がとても高い空間(工場など)
・4階建て以上の中層もしくは高層建築物
・柱の無い空間が求められる建築物
3.納期遅延やコストアップのリスクがある
大規模木造で適切に工法を選択できないと、材料調達や加工期間等による納期遅延や大幅にコストアップのリスクが生じることがあります。大規模木造でも、特注材以外は一般流通材を活用することで安定供給が可能なので、コストの変動を抑えることができます。
大規模木造の工法解説
大規模木造においては、求められる用途によって、適する工法は異なります。
住宅に近い小中規模案件の場合(~300㎡程度)であれば在来軸組構法や枠組壁構法(ツーバイフォー工法)でも対応できることもあります。
一方で大スパン・大空間が求められる大規模案件(500㎡~)では、固定荷重や積載荷重も大きくなり、住宅規模の応力とは異なる部材寸法を選択する必要があることから、集成材構法等でないと構造的に対応できないケースや、コストパフォーマンスが著しく悪くなるケースがあります。
<在来工法>
・向いている用途:住宅
<2×4工法>
・向いている用途:住宅、老人福祉施設(サ高住等)、その他の耐力壁が比較的多くとれる案件
<集成材等建築物(金物工法)>
・向いている用途:大規模建築全般
<CLT工法>
・向いている用途:大規模建築全般(特に中高層建築への利用)
関連記事:大規模木造で主に使われる工法は3種類。使い勝手が良いのは集成材構法
<混構造>
大規模木造を計画する際に、混構造は一つの選択肢です。構造的な特性を考慮すると、木造と親和性が高いのは「立面混構造」です。
下階を非木造(鉄筋コンクリート造、鉄骨造等)とし、上階を木造とする構造形式として、高さ方向に異なる構造種別を組み合わせたのが立面混構造です。
注意点としては、鉄筋コンクリート造との混構造では剛性率の基準をクリアすることが難しいため、「構造計算ルート1」で構造設計・構造計算できる設計内容が求められます。
関連事例:SE構法(混構造)の事務所の事例紹介「日新設計社屋」
大規模木造の工法と材料のコスト
コストや工期の問題への対処方法として、鉄骨造から木造へ工法を変更する非住宅の建築物が増えています。また、伐採期を迎えた日本の森林の活用、公共建築物木材利用促進法の施行といった木造化を促進する政策も次々と施行されています。
<工法>
木造の持つ規格化、標準化された設計・施工技術は、多様な建物や空間を低コストで実現することができます。
大スパン・大空間が求められる大規模案木造においては、設計、供給、施工、コストパフォーマンスの良さが、高い次元で成立している工法が求められます。
関連記事:中大規模木造でコストダウンできる構造計画、構造躯体の考え方
<材料>
構造材といっても、コスト、材種、樹種、強度、制作可能サイズ等様々あるため、事前にそれぞれの特徴を知ることで、適材適所の活用が可能となります。実際の計画においては、構法や構造材を的確に判断し、構造を提案できる構造設計者の存在が重要です。
大規模木造を設計するのに使い勝手がよい(コストと強度のバランスがよい)のは構造用集成材です。
それぞれの材料の解説はこちらです。
大規模木造の構造設計で知っておきたい壁量計算と構造計算の違い
大規模木造の構造に関する設計法で必ず抑えておきたいポイントは下記です。
関連記事:中大規模木造に適した技術と自由があるSE構法の構造設計
<壁量計算と構造計算の違い>
次に壁量計算と構造計算の違いです。壁量計算の計算手法は原則として矩形の建築のみしか想定されていないことが注意点です。
多角形状や曲線・曲面形状を大規模木造を実現するためには構造計算は必須です。構造計算を行うことで、木造でありながら多様な空間構成が実現できますので、さまざまな大規模木造の設計が可能になります。
本セミナーでは、構造設計のケーススタディを、実際の事例をもとに説明させていただきました。ポイントは下記です。
・規模:面積、階数、耐火・準耐火等
・設計条件:積雪量(多雪エリア)、大空間、大スパン等
・建物形状:平面斜辺等
・生産体制との整合性:プレカット会社の実力、実績を事前に確認しての工法選定
・その他
大規模木造の課題解決は木構造デザイン
木構造デザインは、大規模木造の設計・生産に関する課題解決を目指し、普及する鍵は構造設計と生産設計の両立と考えて設立した会社です。構法を問わず、すべての大規模木造について設計から加工、施工までをワンストップで支援することを目指しています。
木構造デザインでは2020年10月より「大規模木造プレカットネットワーク」のサービスを開始しました。大規模木造プレカットネットワークとは、設計者や施工者にとって適切なプレカット工場を見つけることができる、日本初の大規模木造専用のマッチングプラットフォームです。
木構造デザインは、大規模木造専門の構造設計会社として、
・「⾮住宅⽊造専⾨の構造設計」
・「構造設計と連動したプレカットCADデータの提供」※
をメイン事業とし、構造設計と⽣産設計を同時に提供することで、設計から加工までのワンストップサービスで木造建築物の普及に貢献します。(※CADデータはネットイーグル社製のみの対応となります)
大規模木造専門の構造事務所である木構造デザインのサービス
木構造デザインは、ニュートラルな立場で工法を限定しない大規模木造の構造設計や生産設計を提供できることが強みの会社です。
大規模木造では計画に適切なプレカット工場と合わせて、幅広い工法に対応できる構造設計者を選ぶことも重要です。木構造デザインでは、材料手配・プレカットを考慮した構造設計を提供しています。
<木構造デザインの構造計画>
・初期段階から大規模木造の構造計画提案を無料で対応しています。
・設計契約前の提案段階や、コンペ・プロポーザル等の計画案件でも相談可能です。
・具体的な木造による構造計画提案をスピーディーに回答します。
<木構造デザインによる構造設計と生産設計の連動>
・初期段階から大規模木造の構造計画提案に基づく構造材の積算をサポートします。
・構造設計図とプレカット図がデータ連動しているので、正確な積算資料を提供できます。
・工事費の概算見積り等が精度高く、迅速に行えることがメリットです。
<プレカットデータの作成・提供>
・構造設計と連動しているプレカットCADにより正確なプレカット図面が作成可能です。
・正確なプレカットデータにより加工に関するトラブルを未然に防ぐことができます。
・設計段階から生産設計も検討できるため、精度の高い加工や納まりにも対応可能です。
大規模木造の計画を進める中で重要なポイントの一つにプレカット工場の選定があります。
適切なプレカット工場を選択することで、計画をより有利に進めることが可能となります。
まとめ
日本では法制度の整備など大規模建築の木造化への追い風が吹いています。木造化を普及させるためには、理念のみを先行させ過ぎず、適材適所を考えて木造を設計し、大規模木造の市場をつくっていく必要があります。発注者や設計者の木造のリテラシーを高めると同時に、木の生産者や施工者など関係者がメリットを得られる体制が必要です。
このオンラインミニセミナーは連続企画です。毎回、テーマを変えて大規模木造に関する情報提供をさせていただきます。
本セミナーには、設計事務所様や建設会社様など、大規模木造に関心のある建築実務者の方に多数ご参加いただきました。これから大規模木造に取り組む建築実務者の皆様に対して、NCNから特にお伝えしたいことは下記です。
・大規模木造に取り組むことは、決して難しいことではない
・大規模木造の実務を合理的に進めるには、木造に詳しいパートナーを選ぶ必要がある
NCNが提供するSE構法は設計から施工までのワンストップサービスが強みです。計画段階からNCNにご相談いただくことで、NCNが持つ木造建築に関する知見をうまく利用していただき、ファーストプランの段階から構造計画を相談することで、合理的に設計を進めていただければと考えております。
集成材構法として実力・実績のある工法の一つが「耐震構法SE構法」です。SE構法は「木造の構造設計」から「構造躯体材料のプレカット」に至るプロセスを合理化することでワンストップサービスとして実現した木造の工法です。
また工法を問わず、木造の構造設計から構造躯体材料のプレカットに至るスキームづくりに取り組む目的で「株式会社木構造デザイン」が設立されました。構造設計事務所として、「⾮住宅⽊造専⾨の構造設計」、「構造設計と連動したプレカットCADデータの提供」をメイン事業とし、構造設計と⽣産設計を同時に提供することで、設計から加工までのワンストップサービスで木造建築物の普及に貢献する会社です。
株式会社エヌ・シー・エヌ、株式会社木構造デザインへのご相談は無料となっておりますので、お気軽にお問い合わせください。