【徹底解説】大規模木造のコスト解説。実現するための鍵は「適材適所」
時代や社会の変化により建築物の木造化、木質化がより広がる中、大規模木造を実現するために課題となるのがコストコントロールです。鉄骨造やRC造に代わるものとして計画した木造建築物が、木造のメリットを活かした設計を行わず、構造的に特注材を多用したりすると、結果として割高になってしまうことです。コストを潤沢にかけられる特別な建築を除けば、木造住宅の技術の延長としての中大規模木造をより普及、活用していく必要があります。中大規模木造を適正に実現していくためには、材料、部材寸法、接合部仕様などの基本情報を実務者が正しく理解することが大切です。このコラムでは大規模木造のコストに関してわかりやすく解説します。
<このコラムでわかること>
・大規模木造の施工費の概要
・大規模木造のコストの鍵は構造計画
・大規模木造のコスト調整のポイント:耐火建築物への対応
・大規模木造のコストの考え方:鉄骨造との比較
・大規模木造でコストパフォーマンスが高い用途は店舗、事務所、倉庫
・大規模木造をSE構法で実現するポイント
・まとめ
大規模木造の施工費の概要
大規模木造を適正なコストで実現するためには、木造に関するコスト感覚を掴むことが重要です。年々、発注者のコスト意識も高まっておりますし、設計者が工事費を把握しながら設計を進めることが木造化の流れの中では特に求められます。
非住宅の用途では、当初は鉄骨造あるいは鉄筋コンクリート造で計画していた建物を、コストダウン等を期待して木造に切り替えることが多いと思われます。
大規模木造建築のコストの中心である本体工事費は、大きく躯体工事費、仕上げ工事費、設備工事費の3つに分けられます。
そのうち、最も大きな割合を占めるのが躯体工事費です。大規模木造では、木工事の費用が全体の30%前後を占めます。
大規模木造のコストでよく語られる構造材ですが、実はその割合は工事費全体の10%前後のことが多いです。
設計内容や用途、規模によって各工事費の割合は微妙に異なりますが、一般的な形状の大規模木造であれば、この割合に大きな変化はありません。しかしながら、大空間や大スパンによる特注材利用や、建物が矩形ではない特殊形状の場合には、躯体工事費の割合が高くなる傾向にあります。
躯体工事費の割合が高くなると、見積り金額の超過が大きくなりやすく、仕上げ工事費を下げても十分な減額にならないことが多いです。
現実的な実務の進め方としては、設計段階での概算見積りの際は、構造躯体のかたちをおおむね決めた上で構造躯体の概算金額を把握することで、全体工事費と構造躯体費のバランスを判断することが必要です。
関連記事:中大規模木造の建設費の概要とコストを抑えるポイント
大規模木造のコストの鍵は構造計画
大規模木造を計画する際、一つのハードルとなるのが構造計画です。大規模木造の構造計画には大きく分けると2通りの考え方があります。
1.木造住宅の技術の延長としての構造計画
2.鉄骨造やRC造に代わるものとして木を用いる構造計画
大規模木造の計画において、木造建築を慣れていないと過大にコストや工期が膨らんでしまうことがあります。それを避けるためには、構造躯体は一般用流通材を使うことを前提に構造計画を行うことが基本です。
・階高:長さ3mもしくは4mの柱材を前提に決める
→高さが不足する場合は基礎高でも調整できる
・梁:梁せいは製材なら390mm以下、構造用集成材なら450mm以下とし、スパンは6m以内に収める
→上記以上の梁せい、長尺材はなるべく避ける
住宅に近い小中規模案件の場合(~300㎡程度)であれば在来軸組構法や枠組壁構法(ツーバイフォー工法)でも対応できることも多いので、結果としてコストパフォーマンスは向上します。
一方で大スパン・大空間が求められる大規模案件(500㎡~)では、固定荷重や積載荷重も大きくなり、住宅規模の応力とは異なる部材寸法を選択する必要があることから、集成材構法等でないと構造的に対応できないケースが増えます。
大規模木造を設計するのに使い勝手がよい(コストと強度のバランスがよい)構法は構造用集成材です。大スパン・大空間が求められる大規模案件においては、設計、供給、施工、コストパフォーマンスの良さが、高い次元で成立している工法が求められます。
構造計画上、やむを得ず大断面集成材を特注する場合には、納期にも注意が必要です。一般用流通材と比較して、材種によっては2倍以上の納期が必要になることもあります。長尺材は、運搬車両や搬入ルート等、搬入計画も入念に検討する必要があります。
関連記事:中大規模木造でコストダウンできる構造計画、構造躯体の考え方
大規模木造のコスト調整のポイント:耐火建築物への対応
大規模木造のコストを検討する際に、まずおさえることが「防火・耐火」です。鉄骨やコンクリートに比べて燃えやすい木材(木は火に弱いということではない)という材料を使って、法規の基準を満たした火災に強い建築をつくることが求められます。
大規模木造は、規模や建築基準法、各種基準により、耐火建築物や準耐火建築物の仕様が求められることが多くなります。このため、防火・耐火のコストをできるだけ上げないように、建築計画を慎重に検討する必要があります。
木造の耐火建築物では、木造の構造体に耐火の被覆が必要となります。木造の耐火建築物を現実的に計画し、デザインとコストを両立させるには、「構造躯体の木(柱や梁)を見せること」にこだわらない設計が重要となります。
関連記事:木造でも耐火建築物は可能!大規模木造における耐火建築物まとめ
木造は準耐火建築物であれば、建築基準法改正による優遇や、耐火建築物と比較してコストパフォーマンスが向上するなどのメリットが大きくなります。
耐火建築物よりも準耐火建築物のほうが、建材や施工の費用を抑えることができ、大幅に建設コストを抑えることができます。木造の準耐火建築物のコストと比較して、木造の耐火建築物とすることで最もコストアップとなるのが内壁、外壁、設備工事です。内壁・外壁では、石こうボードや断熱材の費用が増します。
関連記事:広がる木造準耐火の可能性!大規模木造における準耐火建築物まとめ
木造は、鉄骨造や鉄筋コンクリート造として「建物重量が軽い」ことが、大きなコストダウンのポイントとなります。特に地盤改良工事、基礎工事、構造躯体工事のコストを抑えることができます。
大規模木造のコストの考え方:鉄骨造との比較
建設業の抱える大きな問題として、慢性的な人手不足や高齢化による職人不足、建築用鋼材の需要変化による価格変動等があります。
そこに輸送コストの上昇も相まって、工期が遅延、長期化する原因となっています。短い工期かつローコストを実現するために、今までは鉄骨造が望ましいと判断されていました。
建設コストは「ヒト(人件費)、モノ(建材費、機器費など)、経費(利益)」の合計で構成されることを考えると、鉄骨造の施工に関する人件費、鋼材の上昇は大きなマイナス要素となります。
木造(SE構法)の基礎は、木造住宅程度の基礎断面なので、配筋量も型枠も比較的少ないです。鉄骨造の基礎は、基礎断面が木造よりも大きくなるため、配筋量も型枠も多くなります。
SE構法で標準で使用する構造用集成材の材種は、オウシュウアカマツなので北欧から輸入する材料です。2021年はウッドショックにより突発的に価格が高騰しましたが、平時であれば変動する単価の幅は数%程度のため、構造材の価格の変動幅は小さいと言えます。鉄骨造は需要変動により鋼材価格の変動が続いています。
木造(SE構法)は、大工による施工が中心のため、施工費の変動はほとんどありません。大工は、地域によって施工費の相場も決まっています。鉄骨造は、職人不足が深刻な状態で、要求品質(性能・コスト・工期)を満足させるためには配慮が必要になります。
関連記事:耐震構法SE構法と鉄骨造を徹底比較(施工・コスト編)
大規模木造でコストパフォーマンスが高い用途は店舗、事務所、倉庫
建設工事の生産性向上に重要なテーマは、規格化と標準化です。設計も施工も規格化、標準化されているのが木造です。木造は910mmモジュールが基本であり、それを前提に建材が製作されていますので設計もそれを前提に進めることができます。
木造では構造部材の加工生産をプレカット工場で行うことが当たり前になっています。コンピューター制御の機械プレカットにより高精度な加工が施され、きれいに梱包されて現場に出荷されるます。木造の構造躯体の施工は、合理的かつ短い日数で施工が可能です。
基礎の施工においても、木造の自重が鉄骨造よりも軽いことから、低層かつスパンがあまり大きくない建築物であれば、住宅レベルのベタ基礎での施工となりますので、施工も早いですし、コストも大幅に削減できます。
木造の持つ規格化、標準化された設計・施工技術により、大規模木造で「うまい、早い、安い」建築が実現できます。
特に低層建築である店舗、事務所、倉庫は木造にコスト面で優位性があります。
店舗、事務所、倉庫においては、低層の建築物(主に平屋)で整形のシンブルな形状の建築物がほとんどです。そうした建築物においては事業性の観点から、特に短い工期かつローコストでの対応が求められます。
建設コストは「ヒト(人件費)、モノ(建材費、機器費など)、経費(利益)」の合計で構成されます。木造の構造部材のコストは、スパンやモジュールを意識して設計すれば、住宅用として一般に流通している木材を利用できますので、鉄骨造よりもかなり安くなります。
店舗、事務所、倉庫などの規模によりますが、大きな構造スパンがある場合は大断面の特注材を用いる必要がありコストがその部分だけコストが上昇しますので注意が必要です。
関連記事:店舗、事務所、倉庫には鉄骨造より木造が「安い、早い、うまい」理由
大規模木造をSE構法で実現するポイント
大規模木造をSE構法で計画する場合のポイントは下記です。
1.低層建築における木造の優位性
木造の持つ規格化、標準化された設計・施工技術は、多様な建物や空間を低コストで実現することができます。特に、高品質で低コスト、短工期が求められる施設等を、確実に設計・施工するために有効な工法が「システム化された木造」であるSE構法です。
関連記事:「店舗、事務所、倉庫には鉄骨造より木造が「安い、早い、うまい」理由」
2.コストの優位性(鉄骨造と木造の比較)
構造で木造(SE構法)を選択することで、基礎や構造躯体のコストが安くなります。外壁仕上げには住宅用サイディング、窓は住宅用アルミサッシなどを使うことで、建材費や施工費も抑えることができます。
関連記事:「中大規模木造の建設費の概要とコストを抑えるポイント」
3.木造でよりコストパフォーマンスを高める(木造の構法による比較)
大規模木造の計画において、木造建築を慣れていないと過大にコストや工期が膨らんでしまうことがあります。それを避けるためには、構造躯体は一般用流通材を使うことを前提に構造計画を行うことが基本です。
関連記事:「中大規模木造でコストダウンできる構造計画、構造躯体の考え方」
4.木造に精通した構造設計者に依頼(SE構法は大規模木造に適している)
SE構法は単純に「剛性のある木質フレーム」というだけではなく、さまざまな利点を追求し、大規模木造で求められる大空間・大開口を可能にして、意匠設計者の創造性を活かせる設計の自由度を提供しています。SE構法は剛性のある木質フレームに囲まれた耐力壁を併用することで、耐力壁の性能を最大限生かすことが可能となり、壁量を少なくできます。SE構法は木造でも明確な構造計算に基づいているので、設計者は安心して意匠設計に集中できます。
関連記事:「中大規模木造に適した技術と自由があるSE構法の構造設計」
5.木造におけるワンストップサービス(SE構法は使い勝手が良い)
SE構法は「木造の構造設計」と「構造躯体材料のプレカット」そして施工というプロセスを合理化することでワンストップサービスとして実現した木造の工法です。大規模木造建築では工法に関わらず、「木造の構造躯体の施工の担い手」を確保する必要があります。SE構法であれば、構造躯体の施工だけをSE構法登録施工店に依頼する「建て方施工」という方法もありますので、施工会社選定の選択肢が大きく広がります。
関連記事:「SE構法はワンストップサービスが魅力!各プロセスごとに徹底解説」
まとめ
都市部を中心に、大規模木造の計画が活性化しています。木造はもはや都市建築の選択肢の一つとなっています。発注者は環境重視の姿勢を強めています。
設計者には、木の材料特性を引き出し、流通する製材を活用して、都市部の建築の木造・木質化の実現が求められています。
SE構法の構造スペックをうまく活用すると、木造では実現が難しい高層化、木造耐火などを実現することができます。都市部の厳しい敷地条件の中、鉄骨造ではコストや施工に問題がある場合においても、木造(SE構法)が有効な選択肢となります。
NCNは構造設計から生産設計(プレカット)までのワンストップサービスが強みです。計画段階からご相談いただくことで、構造設計から材料調達までを考慮した合理的な計画が可能です。
集成材構法として実力・実績のある工法の一つが「耐震構法SE構法」です。SE構法は「木造の構造設計」から「構造躯体材料のプレカット」に至るプロセスを合理化することでワンストップサービスとして実現した木造の工法です。
また構法を問わず、木造の構造設計から構造躯体材料のプレカットに至るスキームづくりに取り組む目的で「株式会社木構造デザイン」が設立されました。構造設計事務所として、「⾮住宅⽊造専⾨の構造設計」、「構造設計と連動したプレカットCADデータの提供」をメイン事業とし、構造設計と⽣産設計を同時に提供することで、設計から加工までのワンストップサービスで木造建築物の普及に貢献する会社です。
株式会社エヌ・シー・エヌ、株式会社木構造デザインへのご相談は無料となっておりますので、ウッドショックでお困りの方もお気軽にお問い合わせください。