伊勢原F 邸は、神奈川県伊勢原市の中西部でみかん園を営む兼業農家であり、みかん畑が点在する農村集落にある。設計者の宮地さんは、いずれこちらを継ぐF夫妻の息子さんである。
建物は東西に長く、東側に90 代の母親の住む離れ、西側がF 夫妻の住む主屋で、土間を介して繋がっている。リビングは中央部で折れ曲がった5角形で、そこに緩やかな勾配の4枚屋根が架かる。
この独特なリビングの形は、かつての日本の民家の現代的な解釈だ。旧来の家は、畳単位で広さが決まった各部屋がふすまを介して地続きとなり、目的に合わせて大広間として使うことができるようになっていた。
F邸のリビングも普段は茶の間や楽器の稽古場になっているが、客を招いて全体を音楽ホールとして使ったり、家族や親戚が集まれるよう想定されている。リビングから繋がる2階も吹抜けに開いた空間となっていて、多目的に使える広間である。
屋根の形状は、南側は眺望と採光、北側は隣接するみかん園への日射から決められている。建築が農地に日陰をつくるということは、あってはならないという土地のルールにしたがって、隣のみかん園の樹々にはいっさい影を落とさない屋根形状とされた。住居の建ち方には、法令遵守以外にも自らが建つ場所の掟を守る必要ある。
設計者である宮地さんは、ゆくゆくはこの住宅に住み、農業と建築業を両立することを模索している。多目的に使える住居は、新しい働き方のポテンシャルも含んでいる。
設計
MIYAJI SPACE DESIGN 一級建築設計事務所
SE施工
有限会社安田建設工業 / http://yasuda-kensetsu-k.com/