
栃木県足利市の風景になじむよう、昔ながらの民家のプロポーションが採用されたT邸。
室内は、柱や梁があらわしとなっていて、大きな三角屋根の形がそのまま内部空間を形作っており、水回り以外は縦空間も含めたワンフロアだ。この形はオーナーであるTさんの「なにもない体育館みたいな家がいい」という要望を叶えたものであり、建築士の”住み手が自力で内部空間を作り上げていく営み”を推奨する思想がうまく重なって生まれた。
柱、屋根、外壁などの骨組みと、内部の壁や柱を別の構造にし、住み手の要望によって内側の間取りを変えられる仕組みをスケルトン・インフィルという。T邸は、柱が少なく大空間を作ることができるSE構法を用いたスケルトン・インフィルの構造で、引き渡し時は骨組みである架構が主体のシンプルな状態だった。
その後Tさんはホームセンターへ足を運び、材料や工具について一から学んだうえで、壁面の本棚や洗面室の収納棚、間仕切りのカーテンレールを取り付けるなどのDIYによって、自分たちらしく住みやすい空間を育てていった。
入居から10年、家族の成長に合わせて1階にあった寝室はLDKの一部となり、2階は家族4人の寝室となった。家族の日常や思い出が伝わってくる数々の物も”あらわし”となって、Tさん一家らしいにぎやかさを生んでいる。ミニマルな空間とはまた別の魅力がある、作りながら暮らす楽しさが息づく唯一無二の住まいとなっている。