SE構法の大規模木造ケーススタディ(事務所編)
脱炭素社会実現に向けて、施設の木造化・木質化は推進する要素の一つになります。木造化・木質化は、企業にとって脱炭素社会への動きを示すためのメッセージにもなります。
これから大規模木造に取り組む建築実務者にとって使いやすいのは「ワンストップサービス」の仕組みを構築している「耐震構法SE構法」です。
特に、高品質で低コスト、短工期が求められる事務所を、確実に設計・施工するために有効な工法が「システム化された木造」であるSE構法です。
このコラムでは木造の構造躯体にSE構法を採用した事務所の実際のプロセスを伝えながら、SE構法の実務ポイントについてお伝えします。
<このコラムでわかること>
・大規模木造は発注者、設計事務所、建設会社に大きなメリット
・SE構法の事務所「くみあい運輸新社屋」の概要
・大規模木造(SE構法)の事務所の構法決定までのプロセス
・大規模木造(SE構法)の事務所の構造設計プロセス
・大規模木造(SE構法)の事務所の確認申請プロセス
・大規模木造に最適なSE構法の実務ポイントまとめ
・大規模木造が注目されている理由
・まとめ
大規模木造は発注者、設計事務所、建設会社に大きなメリット
大規模木造は特に発注者様、設計事務所様、建設会社様にメリットが大きいです。
それぞれの立場におけるメリットは下記です。
<発注者様のメリット>
1.木造の持つ規格化、標準化された設計・施工技術により、木造で「うまい、早い、安い」建築が実現できます。
関連記事:木造化が必須な時代に!発注者向け大規模木造のメリット解説
2.「持続可能な開発目標(SDGs)」への対応、「環境や社会、企業統治を重視する(ESG投資)」の拡大などを背景に、環境や社会への貢献度が企業価値を左右する時代が訪れています。持続可能な木材利用を経営戦略に上手に取り組む企業が増えており、自社の事業用の建築物を木造で計画する企業も増えています。
関連記事:大規模木造とSDGs・脱炭素・ESG投資の相性が良い理由
<設計事務所様のメリット>
1.NCNは「大規模木造を得意としている構造事務所」と考えてください。SE構法の構造スペックを活かして、大規模木造の実現を構造設計を軸に支援できることが強みです。
関連記事:【解説】大規模木造に最適なSE構法の設計ポイントまとめ
2.SE構法は耐震性の高さ、設計の自由度、コストパフォーマンスの良さ、ワンストップサービス等で高い評価を受けており、さまざまな木造建築の実績が増えています。
関連記事:大規模木造に最適なSE構法の用途別、空間別、防耐火別の事例まとめ
3.NCNは木造と鉄筋コンクリート造の「混構造」にも対応できます。計画内容に応じて最適な構造設計を行います。
<建設会社様のメリット>
1. 法人との関係をうまく構築できれば、継続的に仕事を受注できる状況も生まれます。大規模木造に積極的に取り組んでいる建設会社は限定的であることから、他社との差別化を計りやすく、結果として受注を増やすことも可能になります。
関連記事:脱炭素社会は木造化が鍵!建設会社が大規模木造に取り組むべき理由
2. 建設市場での生き残りと同時に、次の事業を再構築することが求められる時代を迎えています。公共・民間で建設する建築物で木造化、木質化を図ることは、これからのスタンダードになることが予想されます。
3. 今まで主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造で計画していた建物を木造で計画する機会が増えています。建設会社にとっては、大規模木造における情報を理解した上で、適切に設計・施工を行う必要があります。建設会社としては事業環境の変化を中長期的な視点で考えた時に、木造に取り組む意義は大きいです。
関連記事:【Q&Aで理解】建設会社が大規模木造をビジネス化するポイント
SE構法の事務所「くみあい運輸新社屋」の概要
木造の構造躯体にSE構法を採用した事務所の実際のプロセスを伝えながら、SE構法の実務ポイントについてお伝えします。
くみあい運輸株式会社様は、畜産農家への飼料の運搬を主業務とする企業です。新社屋は、多様な物流情報を一元管理する新たなヘッドオフィスとして計画されました。この案件の詳細は下記です。
SE構法による構造対応の主なポイントは下記です。
・初期段階から大規模木造の構造計画提案を、「無料」で対応しています。
・設計契約前の提案段階や、コンペ・プロポーザル等の計画案件でも相談可能です。
・NCNがSE構法による構造計画を行い、迅速に回答します。
大規模木造(SE構法)の事務所の構法決定までのプロセス
「くみあい運輸新社屋」の構法決定までの主なプロセスは下記です。
<相談の経緯>
・当初は別の構造事務所様に相談されて構造を検討されていましたが、さまざまな実務の課題があり、うまく進めることができなかったため、NCNに相談をいただきました。
・相談を受けた段階での計画案では、屋根及び2F床をCLTで計画されていました。
<NCNの対応>
・初回提案として、構造伏図(構造計画図の場合もあり)及び、構造体概算見積を提出。
・上記の提案後、SE構法+CLT床・屋根を組み合わせて検討し、検討結果と見積を提出。
・上記の提案と同時に助成金の案内も行う。(スケジュールが合わず今回は利用無し)
<構法の決定>
検討していただいた結果、SE構法のほうが構造躯体価格が安く、構造的にはCLTを利用しなくても同様の空間がつくれるため、CLT利用無しのSE構法のみで進めることになリました。
大規模木造(SE構法)の事務所の構造設計プロセス
SE構法の構造設計は、以下の流れで行います。
- 意匠の計画図を基に、「構造計画」を行う
- 構造伏図を描き、「構造設計」を総合的に検討する
- 鉄骨造やRC造と同じ「構造計算」を行う
基本設計から実施設計に進む段階では、構造的に必要な柱や壁の位置、梁せいなどの情報が必要になってきます。その段階でNCNへSE構法による「構造伏図」をご依頼ください。
「くみあい運輸新社屋」の主な構造設計プロセスは下記です。
<構造伏図:意匠と構造のすり合わせ>
1.構造伏図や軸組図を提出
・構造躯体の内容や、軒の出し方、階段の接合方法の検討を行います。
・SE構法の構造伏図:各階ごとに作成され、構造的に必要な柱・梁・耐力壁等の情報が表示されています。
・SE構法の軸組図:構造的に主要な断面ごとに、梁レベル、耐力壁位置、構造階高等の情報が表示されています。
・SE構法の構造パース:構造伏図の内容を3次元で表現したパースです。SE構法ではプレカットとも連動した独自の3次元CADを使っておりますので、設計者の希望のアングルで構造パースを提出することも可能です。
この構造伏図の段階から、設計者と電話やメールでのやり取り、打合せなどを実施してチェックバックを頂きながら、意匠と構造の整合性を高めて構造設計をまとめていきます。
2.基礎設計の概略図を提出。
・SE構法の基礎検討図:正式な構造計算前ですが、仮定断面等の情報を提供して、設計者と共に検討していきます。設計に加えて、概算見積等の資料になります。
<構造計算>
SE構法による構造計算の主なプロセスは下記です。
・確認申請を提出する1ヶ月前にはNCNへ「構造計算」をご依頼ください。
・設計者より最終の意匠図をいただき、その内容をもとにNCNで構造計算を実施します。
・構造計算図書には確認申請に必要な情報を記載しますので情報提供をお願いします。
・このタイミングで依頼者とNCNの間で「設計業務再委託契約」を取り交わします。
構造計算は下記のように進めます。
・SE構法の構造計算は、まず木造部分の構造計算を実施します。計算後の構造図面をNCNより依頼者に送付しますので、チェックバックをお願いします。
・木造部分の構造計算後の図面を設計者にご承認いただいた後に基礎計算に着手します。
・次に基礎部分の構造計算後図面をご承認いただきます。
・構造伏図で着色された壁部分が耐力壁であり、赤色が構造用合板を両面貼り、青色が構造用合板を片面貼りです。
・木造部分、基礎部分の構造設計内容をご承認の際には、承認書をNCNに送付をお願いします。
構造設計内容をご承認後、確認申請に必要な構造図、構造計算書等を出荷します。
大規模木造(SE構法)の事務所の確認申請プロセス
SE構法の確認申請プロセスは、以下の流れで行います。
<確認申請対応>
SE構法の構造計算書が出荷されたら、確認申請の構造資料として添付して申請機関にご提出をお願いします。
確認申請の構造に関する質疑は、NCNが対応します。一般の構造事務所様と同じ役割とお考えください。
確認申請後の構造質疑については、都度NCN構造設計担当が対応します。
(質疑内容によっては直接審査機関と連絡をとり協議)
<プレカット>
SE構法の構造躯体を施工する場合には、2通りの選択肢があります。
1.SE構法登録施工店が全工事を施工
2.構造躯体のみSE構法登録施工店が建て方施工
基本は上記1で、元請けの施工会社がSE構法登録施工店となり構造躯体を含めて施工することですが、鉄筋コンクリート造や鉄骨造の施工を主体とした建設会社では、大工さんがいないことやノウハウの不足により、木造の構造躯体の施工が困難なことがあります。
その場合には上記2で、構造躯体の施工だけをSE構法登録施工店に依頼する「建て方施工」という方法もあります。
条件や内容次第では、施工会社をNCNで紹介することもできます。
施工会社が決定し工事契約が完了した段階で、まずは施工会社からNCNに「プレカット発注」をお願いします。プレカット発注後、NCNの提携するプレカット工場から「プレカット図」が施工会社に送られます。
SE構法では構造設計とプレカットのCADが連動しており、「構造図=プレカット図」となっておりますので、プレカット図承認などの実務もとても効率的に実施することができます。施工者と共に設計者も「プレカット図の承認」をお願いします。
大規模木造に最適なSE構法の実務ポイントまとめ
大規模木造に最適なSE構法の実務ポイントは主に下記です。
<システム>
耐震構法SE構法は大規模な木造建築物の技術を基に開発された技術です。耐震構法SE構法は耐震性の高さ、設計の自由度、コストパフォーマンスの良さ、ワンストップサービス等で高い評価を受けており、さまざまな木造建築の実績が増えています。
関連記事:大規模木造から生まれたSE構法を徹底解説(システム編)
<事例>
SE構法は特に低層建築物である店舗、事務所、倉庫、幼児施設、高齢者施設等の非住宅建築を中心に、さまざまな木造建築の実績が増えています。耐火建築物や準耐火建築物への対応も可能です。
関連記事:【解説】大規模木造の可能性が大きく広がるSE構法の事例紹介
<構造設計>
SE構法の構造設計プロセスは、「構造計画」「構造設計」「構造計算」の3ステップで進めていきます。
関連記事:【解説】SE構法の構造設計が大規模木造で評価される理由
<プレカット>
SE構法は大スパン・大空間が求められる大規模木造において、構造設計、材料加工、施工、コストパフォーマンスの良さを高い次元で成立している工法です。SE構法は徹底した品質管理と、構造計算から部材加工まで一貫したCADシステムにより高精度のプレカット加工を実現しています。
関連記事:【解説】大規模木造で構造設計とプレカット加工が連動するSE構法
<施工>
SE構法は、基礎構造から構造体施工に至るまで厳しい品質を追求しています。SE構法は独自の施工管理技術が必要なため、どの建設会社でも施工できるわけではありません。試験に合格したSE構法施工管理技士が在籍し、一定の技術水準を有すると認められた「SE構法登録施工店」がSE構法の建物を施工します。
関連記事:【解説】大規模木造で使いやすいSE構法の施工ポイント
<構造用集成材>
構造用集成材は「科学された木材」と言われ、製造過程でひき板一枚一枚の節の大きさや曲げヤング係数を計測・選別して集成材化しており、表示通りの性能が発揮されるので構造材として安定しています。構造の安全性を保証するSE構法は部材の信頼性を重視し、全て構造用集成材を使用しています。
関連記事:【解説】大規模木造に適した構造用集成材をSE構法が採用する理由
<SE金物>
SE構法は独自のSE金物により、集成材、耐力壁、床合板それぞれの強さを活かしています。一般的な木造は、接合部に柱や梁をホゾ継ぎするため、地震時に断面欠損をまねき、構造材本来の強度を低下させてしまいます。そこでSE構法は、大きな揺れに対して接合部が破損しない技術を追求し、独自にSE金物を開発しています。
関連記事:【解説】大規模木造で様々な設計に対応できるSE構法の強さの理由はSE金物
大規模木造が注目されている理由
近年、大規模木造が注目されている3つの主なポイントは下記です。
1.SDGs「持続可能な森林の経営」
・森林経営に必要不可欠な建物の木造化、木材を利用すると回る植林→伐採→植林の健全なサイクル
関連記事:大規模木造とSDGs・脱炭素・ESG投資の相性が良い理由
関連記事:ウッドショックが顕在化させた木材供給リスクと国産材の課題
2.世界的に広がる木造化・木質化の流れ
・脱炭素社会、カーボンニュートラル、ESG投資などによる木造化・木質化の流れ
関連記事:脱炭素・カーボンニュートラルで木造化・木質化が注目される理由
・海外や国内における木造化・木質化の流れ
関連記事:海外と日本の動向から考える大規模木造・中高層木造の展望
3.国の政策や各種緩和
・「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」等
関連記事:脱炭素が法律になる時代に!改正建築物省エネ法に関する動向
・建築基準法等の変容:準耐火・耐火建築物の見直し等
関連記事:大規模木造の防耐火設計まとめ!耐火建築物と耐火同等建築物の解説
さまざまな観点で、木造化、木質化が注目される時代となっています。
まとめ
SDGs、脱炭素社会、ESG投資への対応が求められる時代になり、木造化・木質化が急速に進んでいます。
大規模木造(SE構法)の構造躯体の強みを活かした構造設計により、コスト減、納期短縮、施工性向上を実現することができます。
SE構法は構造用集成材の中断面部材(柱は120mm角、梁は120mm幅)が標準なため、住宅と同等の部材寸法でスパン8m程度までの空間を構成できるコストパフォーマンスをうまく活用していただければと考えております。スパンが10mを超える空間は、特注材やトラス、張弦梁などを活用することも可能です。
計画段階からNCNの特建事業部に相談することで、木造建築に関する知見をうまく利用していただき、ファーストプランの段階から構造計画を相談することで、合理的に設計実務を進めることが可能です。
集成材構法として実力・実績のある工法の一つが「耐震構法SE構法」です。SE構法は「木造の構造設計」から「構造躯体材料のプレカット」に至るプロセスを合理化することでワンストップサービスとして実現した木造の工法です。
また構法を問わず、木造の構造設計から構造躯体材料のプレカットに至るスキームづくりに取り組む目的で「株式会社木構造デザイン」が設立されました。構造設計事務所として、「⾮住宅⽊造専⾨の構造設計」、「構造設計と連動したプレカットCADデータの提供」をメイン事業とし、構造設計と⽣産設計を同時に提供することで、設計から加工までのワンストップサービスで木造建築物の普及に貢献する会社です。
株式会社エヌ・シー・エヌ、株式会社木構造デザインへのご相談は無料となっておりますので、お気軽にお問い合わせください。