ご夫婦とお子さま4人の計6人家族である建主のTさん。自然豊かな環境で地域とつながりながら子育てをしたいと考え、東側と南側に遊歩道がある敷地に一軒家を建てることを決意した。
設計は、建築界の重鎮である阿部勤さんにお願いしたいと考え、戸惑いながらも阿部さん主宰のアルテックに連絡。阿部さんからは、住宅設計は建主と話し合いながら一緒に進めるものだと言われ、家づくりの過程を楽しむことができたという。
Tご夫妻の要望は、庭と外部空間、また地域コミュニティに開かれたかたちであること、阿部さんの自邸のような混構造であること、みなで料理ができるキッチンといったもの。要望を精査していく過程でオーバーしていた予算も収まったというから一石二鳥だ。
参考にした阿部さんの自邸は、約40年前に建てられた作品。家に中心地を設け、それを囲むよう部屋を配置した「回」の字型の平面図となっており、人間の本質的な欲求である籠ることと開くことを両立したという。この形式は時代を超えて人に安心感を与えるものだとして、T邸もそれに倣った。
1階はRC造で、リビングを中心にダイニング、キッチンと和室を配置。対して2階は木造SE構造。軸組みを生かして床レベルを違えたり、床をセットバックさせたりすることで、陽光を入れ、視界の抜けを作り出した。
軸組架構の違いが空間の質の違いとなったT邸。空間の可変的な使い方を受け止めながら外と繋がるおおらかな住まいができあがった。