【注目】中高層は大規模木造で実現できる!中高層木造の実務ポイント
建築分野における「脱炭素化」の柱の1つが木材利用の促進です。2021年に改正された木材利用促進法がこれから本格始動することで新たな需要も期待されます。木材の原料となる樹木は、大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収して育ちます。大気中の二酸化炭素を吸収して育つ樹木は、それ自体が炭素の固まりです。建築物の木造比率が高まれば、その分だけ社会における炭素貯蔵機能が増えることになります。木材の最も大きな需要は建築構造材であり、社会全体の「ウッドチェンジ」が成功するかの一つの方策が中高層建築物の木造化です。このコラムでは中高層木造の実務ポイントについて解説します。
<このコラムでわかること>
・中高層建築物の木造化が注目される理由
・防耐火の規制が合理化されると中大規模木造が普及する
・改正される法制度が中高層木造の追い風に
・中高層建築物の木造化の実務ポイント
・中高層建築物の木造化への課題
・SE構法の木造4階建ての事例「ヤマサ製菓ビルハピア豊橋」
・SE構法へのお問合せ、ご相談について
・まとめ
中高層建築物の木造化が注目される理由
近年、建築系メディアで木造を採用したプロジェクトの掲載が増えていますが、現状では中高層建築物の過半数が非木造です。
社会資本整備審議会の報告書では、中高層住宅や非住宅の木造化率向上を課題として挙げ、解決に取り組む方針を打ち出しています。
建築基準法や建築物省エネ法の改正の動きに先立ち、国として木材利用促進の方針を基礎付ける法律もできました。
2021年6月に成立した公共建築物木材利用促進法の改正法です。改正により、法の名称は「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(木促法)と改まり、民間建築物にも対象を拡大しています。
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林野庁は「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」を作成しました。建築物に使用した木材の材積をベースに、樹種別の密度や炭素含有率などを掛け合わせて、その建築物が固定している炭素貯蔵量(ストック)を表示するものです。
SDGs(持続可能な開発目標)行動指針を有する企業を中心として、発注者側から建設会社などへ「建設プロジェクトにおけるCO2排出量を報告してほしい」という要望も出ています。
上記のガイドラインは木造のメリットを見える化する標準ルールであり、設計者や建設会社にとっては、発注者である企業や消費者との「共通言語」として、地球温暖化対策への寄与度を具体的に説明できるようになることが期待されています。
関連記事:大規模木造とSDGs・脱炭素・ESG投資の相性が良い理由
防耐火の規制が合理化されると中大規模木造が普及する
2000年に性能規定化された建築基準法ですが、都市の安全を担う防耐火規制にはまだ、性能実証だけでは突破できない規制が残っています。
建築分野での木材利用を拡大するため、大きな壁となっているのが建築基準法の防火規定です。
例えば基準が合理化され、耐火建築物全体の壁の耐火被覆が強化石こうボード2枚張りで済ませられる仕様などが登場すれば使い勝手は良くなります。
建築基準法改正で採り入れられた「火災時倒壊防止構造」など新たな燃えしろ設計手法についても、「規模・用途・立地に応じてそれぞれ要求される検証方法が複雑」として、仕様規定の充実などを図る方針が打ち出されています。
すでに新たな燃えしろ設計を用いて木を現しとした4階建て共同住宅(主要構造部は75分準耐火構造)などの先行事例も登場しており、仕様規定化による効率化が期待されます。
関連記事:木造の準耐火建築物の可能性が広がる!改正建築基準法の解説
準耐火構造であれば柱や梁の耐火被覆は不要となり、木の現し仕上げが可能です。
関連記事:準耐火建築物であれば「燃え代設計」により木造の構造体を現しにできる
改正される建築基準法が中高層木造の追い風に
国土交通省は木材利用の促進を狙いとして、基準の合理化を進めています。法制度面で中高層木造の追い風になっているのが、改正建築基準法です。
構造規定の見直しに伴い、木造で構造計算が要求される規模が「300m2以上」に引き下げられます。
現行の建築基準法は、(1)延べ面積500m2超、(2)3階建て以上の木造について構造計算を義務付けていますが、このうち(1)の要件が「300m2超」に引き下げられます。
建築物省エネ法で「中大規模建築物」とされる延べ面積300m2以上の建築物では、構造計算は必須になります。
並行して、木造3階建てでルート1を適用可能な範囲が「高さ13m以下または軒高9m以下」から「高さ16m以下」に緩和されます。
2018年の建築基準法改正で、耐火建築物が必須となる要件が「高さ16m超」に緩和されたことを踏まえ、基準が合理化されます。(階数4以上は耐火建築物とする必要がある)
関連記事:木造でも高さ16m以下であれば防耐火要求無し!改正建築基準法の解説
3階建ての木造建築物の高さに絞って規制緩和を行う背景には、省エネ基準適合義務化を前提とした住宅・建築供給者の要請があります。
「3階建ての木造建築が高さ13m以下に納まらない」ことが、木造3階建てにおける現行の建築基準法の問題点です。階高を抑えるために天井懐の寸法を狭くすると、吸排気ダクトの配管が難しくなる等の問題があります。
高さ制限などの集団規定は優先されますが、こうした基準が緩和されることで木造で中高層は計画しやすくなります。
中高層建築物の木造化の実務ポイント
中高層建築物の木造化の実務ポイントは主に下記です。
1.コストコントロール
木造は、鉄骨造や鉄筋コンクリート造として「建物重量が軽い」ことが、大きなコストダウンのポイントとなります。特に地盤改良工事、基礎工事、構造躯体工事のコストを抑えることができます。
大規模木造の計画においては、構造躯体は一般用流通材を使うことを前提に構造計画を行うことが基本です。
関連記事:中大規模木造の建設費の概要とコストを抑えるポイント
関連記事:「中大規模木造でコストダウンできる構造計画、構造躯体の考え方」
2.耐火建築物への対応
大規模木造は、規模や建築基準法、各種基準により、耐火建築物の仕様が求められることが多くなります。このため、防火・耐火のコストをできるだけ上げないように、建築計画を慎重に検討する必要があります。
木造の耐火建築物では、木造の構造体に耐火被覆が必要となります。木造の耐火建築物を現実的に計画し、デザインとコストを両立させるには、「構造躯体の木(柱や梁)を見せること」にこだわらない設計が重要となります。
木造耐火構造を計画する場合、内部を石膏ボードで覆う必要があるため、空間の確保や、耐火被覆分のコストアップについて事前によく検討をしておく必要があります。
関連記事:木造でも耐火建築物は可能!大規模木造における耐火建築物まとめ
3.準耐火建築物で計画するメリットを活かす
建築基準法改正前は木造建築物の高さが13m、軒高が9mを超えると一律に耐火構造にする必要がありました。改正後は、高さ16m以下かつ3階以下であれば、木造でも耐火構造としなくてよくなりました。(ただし、倉庫や自動車修理工場などの基準は高さ13m以下で据えおかれています。)
高さ16m超、4階以上であっても、壁や柱などの主要構造部で木材を通常よりも厚くすれば、石こうボードなどで覆わなくてもよくなります。消火までに倒壊しない防火性能を満たすことが条件です。
新設された「75分・90分準耐火構造」は、これまで耐火構造が求められたケースで、一定の性能を満たせば準耐火構造で建てられます。
関連記事:木造の準耐火建築物の可能性が広がる!改正建築基準法の解説
中高層建築物の木造化への課題
中高層建築物を木造化するための課題は主に下記です。
【ビジネス面】
- SDGsや脱炭素の観点で、他の構造と比較し、木造の優位性を示す
- CO2抑制のため植林、伐採の循環サイクルを維持していくために、住みやすく健康にも良い、またコスト面でも合理性のある木造建築を推進する
- 木造に関する行政の支援(補助金、助成金など)、法改正
- 森林伐採という負のイメージの刷新して、サスティナブルな木造の仕組みを構築
【不動産面】
- 木造の技術面の向上と施工性、耐用年数の見直し
- 木造の耐震、耐火性に関する啓発活動
- 木造・木質を積極的に取り入れるにあたり「脱炭素」をテーマに訴求
- 木造のコスト競争力。鉄筋コンクリート造や鉄骨造に対抗できるようにする
- 木造の償却を早くできる点はメリットとして活かす
【設計・施工面】
- 木造の耐震、耐火設計、建築技術の向上
- 木造や木質系の建物の安全性(防火、耐震性)についての周知
- 木材の流通の問題を整備、解決。材料のストックと流通を向上
- 木造のコスト削減
- CO2削減の炭素固定化ビジネスはこれから活発になるので、スクラップせず長期的に木造建築を社会で維持できる仕組み
SE構法の木造4階建ての事例「ヤマサ製菓ビルハピア豊橋」
SE構法の木造4階建ての事例として「ヤマサ製菓ビルハピア豊橋」があります。
<「ヤマサ製菓ビルハピア豊橋」の概要>
・計画地は駅からも近い商業地域、防火地域でもあり、耐火建築物
・4階建ての木造(SE構法)と避難経路を兼ねた2階建ての鉄骨造の建物との平面混構造
(構造的には分離、エキスパンジョイントあり)
・1階から3階までは事務所用途のテナントスペース、最上階の4階は住居
この木造4階建ての事務所ビルにおけるSE構法の構造設計の主なポイントは下記です。
・狭小地の設計施工で、鉄骨造だと接合部の点数が増えてコストアップにつながってしまう
→木造で計画した結果、逆に材長が6m以下の流通規格の材料を中心に設計することができ、コストダウンが可能
・鉄骨造と比較して重量の軽い木造でも木造耐火による被覆を行う事によって重量が重くなり、かつ4階建てなので一般的な在来軸組工法では計画すること自体が困難
→SE構法では耐力フレーム・耐力壁を効率的に配置でき、難なく計画することができ、必要な開口も確保することが可能
・SE構法の強みを活かした構造設計により、コスト減、納期短縮、施工性向上を実現
→構造的に応力や荷重が集中する部分には、短辺方向に平角柱、大梁を抱き合わせにするディテールを用いることで、特注材を最小限に抑える
立地条件や地盤状態等により、鉄骨造や鉄筋コンクリート造では実現が難しい場合等は、「木造4階建」は有効な選択肢となります。
SE構法で実現した木造耐火建築物の4階建て事務所ビルの事例は下記です。
関連記事:木造4階建てのSE構法の事務所ビルの事例紹介「ヤマサ製菓ビルハピア豊橋」
SE構法へのお問合せ、ご相談について
大規模木造をSE構法で実現するための流れは下記となります。
1.構造設計
SE構法を活用した構造提案を行います。企画段階の無料の構造提案・見積りから、実施設計での伏図・計算書作成、確認申請の指摘対応等を行っております。また、BIMにも対応可能です。
2.概算見積り
SE構法は構造設計と同時に積算・見積りが可能です。そのため躯体費用をリアルタイムで確認可能で、大規模木造の設計において気になる躯体予算を押さえつつ設計を進めることが可能です。
3.調達
物件規模、用途、使用材料を適切に判断して、条件に応じた最短納期で現場にお届けします。また、地域産材の手配にも対応しております。
4.加工
構造設計と直結したCAD/CAMシステムにより、高精度なプレカットが可能です。また、多角形状、曲面形状などの複雑な加工形状にも対応可能です。
5.施工
SE構法の登録施工店ネットワークを活用し、計画に最適な施工店を紹介します。(元請け・建方施工等)
6.非住宅版SE構法構造性能保証
業界初の非住宅木造建築に対応した構造性能保証により安心安全を担保し、中大規模木造建築の計画の実現を後押しします。
↓SE構法へのお問合せ、ご相談は下記よりお願いします。
https://www.ncn-se.co.jp/large/contact/
まとめ
都市部を中心に、大規模木造の計画が活性化しています。木造はもはや都市建築の選択肢の一つとなっています。発注者は環境重視の姿勢を強めています。
設計者には、木の材料特性を引き出し、流通する製材を活用して、都市部の建築の木造・木質化の実現が求められています。
SE構法の構造スペックをうまく活用すると、木造では実現が難しい高層化、木造耐火などを実現することができます。都市部の厳しい敷地条件の中、鉄骨造ではコストや施工に問題がある場合においても、木造(SE構法)が有効な選択肢となります。
NCNは構造設計から生産設計(プレカット)までのワンストップサービスが強みです。計画段階からご相談いただくことで、木構造デザインの木造建築に関する知見をうまく利用していただき、ファーストプランの段階から構造計画を相談いただくことで、合理的に設計を進めていただければと考えております。
集成材構法として実力・実績のある工法の一つが「耐震構法SE構法」です。SE構法は「木造の構造設計」から「構造躯体材料のプレカット」に至るプロセスを合理化することでワンストップサービスとして実現した木造の工法です。
また構法を問わず、木造の構造設計から構造躯体材料のプレカットに至るスキームづくりに取り組む目的で「株式会社木構造デザイン」が設立されました。構造設計事務所として、「⾮住宅⽊造専⾨の構造設計」、「構造設計と連動したプレカットCADデータの提供」をメイン事業とし、構造設計と⽣産設計を同時に提供することで、設計から加工までのワンストップサービスで木造建築物の普及に貢献する会社です。
株式会社エヌ・シー・エヌ、株式会社木構造デザインへのご相談は無料となっておりますので、お気軽にお問い合わせください。