【直撃】資材価格高騰局面での大規模木造におけるコストダウン対策
近年、建設業界は、原油高による原材料・輸送費の高騰、コンテナ不足とウッドショック、半導体不足による設備機器の品薄、更に新型コロナウイルスへの感染防止対応と困難な状況が続き、未だ回復の兆しは見えていません。
大規模木造の計画において鍵となるのは、資材価格高騰に応じたコスト調整です。価格上昇してもまた何かしらの原価がさらに上がってくるというような不測の自体も予想されます。価格に関する攻防はしばらく続くと見られ、発注者、建築実務者ともに難しい判断を迫られます。資材価格高騰とどう向き合っていくかが、大規模木造の計画においても重要なテーマになっています。
このコラムでは、資材価格高騰局面での大規模木造におけるコストダウン対策に関してわかりやすく解説します。
<このコラムでわかること>
・資材価格高騰局面での大規模木造におけるコストを考えるキーワード
・資材価格高騰局面での大規模木造における建設費のコスト調整法
・大規模木造におけるSE構法のコストダウンのポイント
・SE構法へのお問合せ、ご相談について
・まとめ
資材価格高騰局面での大規模木造におけるコストを考えるキーワード
資材価格高騰を理由に、設備や建材を製造するメーカーなどから、価格を改定し値上げする動きが増えています。
資材価格高騰による影響がこれから更に現れてくると考えられ、これからの建設プロジェクトでは今まで以上にコストへの対応が必要な状況です。
資材価格高騰局面での大規模木造のコストを考えるキーワードは主に下記です。
1.地政学リスク
海外情勢の深刻な悪化により、幾重にも不透明感が広がっています。世界経済の混乱を受けて景気の悪化も予想されます。
地政学リスクに対する反応はすぐさま原材料費に現れます。原油の先物相場や鉄鋼などさまざまな業種に影響を及ぼします。
2.資源インフレ
世界的な資源インフレを受けた資材高の結果、建設資材物価指数はプラスの状況が続いています。
顕著なのは鋼材価格の推移です。鉄鋼は2021年前半の鉄鉱石価格の高騰、同後半の石炭価格の高騰を受けて高値で進行しています。これを背景にH形鋼、厚鋼板といった主要な建設用の鋼材が軒並み値上がりしています。
3.ウッドショック
第3次ウッドショックは、2021年3月からはじまった木材価格の急上昇によるパニックです。木材価格の急な価格上昇からプレカット工場などの受注制限などが起こり、各種木材の入手が困難になった状態になったことです。
ウッドショックの具体的な影響として、木造建築の柱や梁(はり)などに使う輸入木材の需給が逼迫して価格が高騰し、納期も予測できず、そもそも材料が調達できるかどうかが不明な状により、大きな混乱が生じています。
関連記事:ウッドショックが顕在化させた木材供給リスクと国産材の課題
4.運賃
コンテナ船運賃が高騰しています。原因は、新型コロナ感染症で世界的にコンテナ需給が歪になり、特定の港に空コンテナが大量に滞留していること、船員が新型コロナの影響で減少し人手不足が起きていることなどが挙げられます。
また、原油価格が上昇していること、為替が円安傾向にあることも、コンテナ運賃高に関係しています。コンテナ運賃の上昇も資材価格の急騰に大きく影響します。
5.価格上昇に伴う在庫不足
建材全般の価格上昇が避けられない状況に差し掛かっています。
不測の事態により、モノの不足も突然起こります。昨日まで手配できたモノが急に無くなると、工事の中断や引き渡しの遅れなども発生するリスクが高まります。
おそらく半導体を使う設備は、今後再び逼迫してくる可能性があり、ある程度在庫をストックしておくことも必要かもしれません。
資材価格高騰局面での大規模木造における建設費のコスト調整法
時代や社会の変化により建築物の木造化、木質化がより広がる中、資材価格高騰局面で大規模木造を実現するために課題となるのがコスト調整です。
資材価格高騰とは別に、鉄骨造やRC造に代わるものとして計画した木造建築物が、木造のメリットを活かした設計を行わず構造的に特注材を多用したりすると、割高になってしまうことも多発しています。
資材価格高騰局面での大規模木造における建設費のコスト調整法は主に下記です。
1.大規模木造のコストの概要を正しく理解する
大規模木造を適正なコストで実現するためには、木造に関するコスト感覚を掴むことが重要です。年々、発注者のコスト意識も高まっておりますし、設計者が工事費を把握しながら設計を進めることが木造化の流れの中では特に求められます。
現実的な実務の進め方としては、設計段階での概算見積りです。建物の計画規模を決めた段階で早めに概算金額を把握することで、全体工事費のバランスを判断することが必要です。
関連記事:中大規模木造の建設費の概要とコストを抑えるポイント
2.構法の選定
大規模木造の計画において、木造建築に慣れていないと過大にコストや工期が膨らんでしまうことがあります。それを避けるためには、構造躯体は一般用流通材を使うことを前提に構法の選択を行うことが基本です。
例えば構造材として構造用集成材を使う場合、一般的な流通材(6m以下)を超える特注材が増えるとコストアップにつながります。
関連記事:中大規模木造でコストダウンできる構造計画、構造躯体の考え方
3.構造材の選定
構造材は材種、樹種、強度、制作可能サイズ等様々あるため、材の特性を知った上で「適材適所」で使い分けることがコスト管理では重要です。
一般流通材は流通量が多く、特殊材と比べ、比較的調達もしやすく価格も品質も安定しています。一般流通材の材種や材寸を把握し、架構計画に反映することは低コスト化の一つの方法です。
関連記事:低層の中大規模木造は住宅用の一般流通材を使うと鉄骨造より安くなる理由
4.設計の工夫
木造は910mmモジュールが基本であり、それを前提に建材が製作されています。外壁仕上げにはサイディング、窓は木造用アルミサッシなどの既製品を使うことで、建材費や施工費も抑えることができます。
一般的なコストダウンの手法では、仕上げ工事や設備工事のグレードを落とすことで進められることもあります。一方で省エネを重視する傾向も年々高まり、温熱環境にかかわる高性能建材は避けては通れません。そのため、仕上げ工事や設備工事によるコストダウンにも限界はあります。
関連記事:【徹底解説】大規模木造のコスト解説。実現するための鍵は「適材適所」
5.耐火建築物ではなく、準耐火建築物で計画する
大規模木造は防火・耐火の要求の有無によりコストが大きく変わります。耐火建築物よりも準耐火建築物のほうが、建材や施工の費用を抑えることができ、大幅に建設コストを抑えることができます。
木造の耐火建築物では、木造の構造体に耐火被覆が必要となります。木造の耐火建築物を現実的に計画し、デザインとコストを両立させるには、「構造躯体の木(柱や梁)を見せること」にこだわらない設計が重要となります。
木造の準耐火建築物のコストと比較して、木造の耐火建築物とすることで最もコストアップとなるのが内壁、外壁、設備工事です。内壁・外壁では、石こうボードや断熱材の費用が増します。可能な場合は、準耐火建築物で計画できるとコスト面では有利になります。
関連記事:木造でも耐火建築物は可能!大規模木造における耐火建築物まとめ
関連記事:広がる木造準耐火の可能性!大規模木造における準耐火建築物まとめ
大規模木造におけるSE構法のコストダウンのポイント
大規模木造におけるSE構法のコストダウンのポイントは主に下記です。
1.スパンを抑える
構造躯体は一般用流通材を使うことを前提に構造計画を行うことが基本です。
・階高:長さ3mもしくは4mの柱材を前提に決める
→高さが不足する場合は基礎高でも調整できる
・梁(構造用集成材):梁せいは450mm以下とし、スパンは6m以内に収める
→上記以上の梁せい、長尺材はなるべく避ける
大スパンの場合は、トラスや張弦梁などを採用することにより、大断面の特注材を使用するよりもコストを抑えることができます。
関連記事:耐震構法SE構法では張弦梁を採用して軽快な印象の大空間を実現できる
2.建物を不整形に計画しない
通常、SE構法の梁受け金物は平面的にT字型であり、柱の面に梁受け金物を取り付け、梁を落とし込み、ドリフトピンで接合します。
SE構法の平面斜辺の場合には、梁受け金物をその平面斜辺の角度に合わせて特注で製作します。柱の面に梁受け金物を取り付けるディテールは同じですが、梁を受けるプレートが平面斜辺の角度に合わせて曲げられています。
SE構法の平面斜辺の注意点は、水平部分との接合部分の梁受け金物が特注品になるため、金物代のコストが上がります。
関連記事:耐震構法SE構法は斜辺やR壁の平面計画に対応可能
3.構造グリッドを意識した設計
構造グリッドとは、柱・大梁・耐力壁で構成された構造フレームを立体的に組み合わせるための基本となる立体格子状のグリッド線の集まりをいいます。
この構造グリッド上に組み立てられた立体構造フレームが、鉛直荷重・水平荷重に対して安全であるように、構造計画を行ないます。各階の平面グリッドは下階の平面グリッドと重なるように考えることが基本です。
上下階の平面グリッドが合わないと構造的に不安定になり、柱梁等が増えたり部材断面が大きくなったりするなど、構造的・経済的に無駄が多くなります。
関連記事:耐震構法SE構法で構造とコストを両立させる鍵は構造グリッドの理解
4.JAS構造材で利用できる補助金・助成金を活用する
JAS構造材を活用する実証的取り組みに対し、その木材の調達費の一部が助成される仕組みです。
NCNでは、建築実務者向けに向けて、通常の構造設計や構造躯体供給に加えて、助成金情報の発信や申請のアドバイス、サポートを提供しています。
令和4年度のJAS構造材に関する助成金も発表されています。詳しくはお問い合わせください。
SE構法へのお問合せ、ご相談について
大規模木造をSE構法で実現するための流れは下記となります。
1.構造設計
SE構法を活用した構造提案を行います。企画段階の無料の構造提案・見積りから、実施設計での伏図・計算書作成、確認申請の指摘対応等を行っております。また、BIMにも対応可能です。
2.概算見積り
SE構法は構造設計と同時に積算・見積りが可能です。そのため躯体費用をリアルタイムで確認可能で、大規模木造の設計において気になる躯体予算を押さえつつ設計を進めることが可能です。
3.調達
物件規模、用途、使用材料を適切に判断して、条件に応じた最短納期で現場にお届けします。また、地域産材の手配にも対応しております。
4.加工
構造設計と直結したCAD/CAMシステムにより、高精度なプレカットが可能です。また、多角形状、曲面形状などの複雑な加工形状にも対応可能です。
5.施工
SE構法の登録施工店ネットワークを活用し、計画に最適な施工店を紹介します。(元請け・建方施工等)
6.非住宅版SE構法構造性能保証
業界初の非住宅木造建築に対応した構造性能保証により安心安全を担保し、中大規模木造建築の計画の実現を後押しします。
↓SE構法へのお問合せ、ご相談は下記よりお願いします。
https://www.ncn-se.co.jp/large/contact/
まとめ
都市部を中心に、大規模木造の計画が活性化しています。木造はもはや都市建築の選択肢の一つとなっています。発注者は環境重視の姿勢を強めています。
設計者には、木の材料特性を引き出し、流通する製材を活用して、都市部の建築の木造・木質化の実現が求められています。
SE構法の構造スペックをうまく活用すると、木造では実現が難しい高層化、木造耐火などを実現することができます。都市部の厳しい敷地条件の中、鉄骨造ではコストや施工に問題がある場合においても、木造(SE構法)が有効な選択肢となります。
NCNは構造設計から生産設計(プレカット)までのワンストップサービスが強みです。計画段階からご相談いただくことで、構造設計から材料調達までを考慮した合理的な計画が可能です。
集成材構法として実力・実績のある工法の一つが「耐震構法SE構法」です。SE構法は「木造の構造設計」から「構造躯体材料のプレカット」に至るプロセスを合理化することでワンストップサービスとして実現した木造の工法です。
また構法を問わず、木造の構造設計から構造躯体材料のプレカットに至るスキームづくりに取り組む目的で「株式会社木構造デザイン」が設立されました。構造設計事務所として、「⾮住宅⽊造専⾨の構造設計」、「構造設計と連動したプレカットCADデータの提供」をメイン事業とし、構造設計と⽣産設計を同時に提供することで、設計から加工までのワンストップサービスで木造建築物の普及に貢献する会社です。
株式会社エヌ・シー・エヌ、株式会社木構造デザインへのご相談は無料となっておりますので、ウッドショックでお困りの方もお気軽にお問い合わせください。