1966年に創業し、三重県津市に拠点を構える日新設計株式会社。現在3代目の社長となる出口氏はデザイン力を買われて地元のゼネコンから日新設計へ移籍。2年前に社長職に就任した。
当時、事務所が入居していたビルの取り壊しが決まったこともあり、出口氏の経営姿勢や設計スタイルを表すかのような新社屋建設を決めたという。新しいオフィスを設計するにあたり、参考にしたのは歴史的建造物だ。
出口氏の母校である三重大学には、モダニズム建築を多く残したチェコ出身の建築家アントニン・レーモンドが設計した建物がある。それは緩やかな勾配の屋根に深い軒が特徴で、出口氏は学生の頃からその美しさが脳裏に焼き付いていたという。
その建物と、地元の国魂神社周辺にゆったりと建つ勾配屋根の木造家屋のエッセンスを取り込むこと決め、1階は高基礎に見立てたRC造、その上に木造平屋を載せるかのような混構造を採用。木造部分は広々とした無柱空間が可能となるSE構法だ。
1階のギャラリーと応接室、さらに2階の水回りまでは、地域の人たちに使ってもらうことを前提としたコミュニティスペースだ。2階は事務室と役員室から成り、それに準じたセキュリティ計画とした。
「歴史に倣いつつ、質の高いデザインを更新していくこと」。出口氏は新社屋建設を通して、設計事務所としてのミッションが明確になったと言う。質の高いデザインにSE構法あり。SE構法は、美しく自由な建築物の可能性を縁の下で支えている。