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2020/03/06インフォメーション

【セミナーレポート】 『木造デザイン』建築家・構造家・木構造メーカー それぞれの視点

エヌ・シー・エヌは、中大規模木造セミナー「『木造デザイン』建築家・構造家・木構造メーカー それぞれの視点」を、新建築社の後援により2020年2月28日にAP新橋(東京都港区)で開催しました。

本セミナーでは、急増する中・大規模木造建築について、第一線で活躍する実績豊富な建築家、構造家、木構造メーカーが、それぞれの視点から木造建築に対する取り組みを語りました。

◆木だからこそのデザインとその裏側

カリキュラムの第一部、SALHAUS 安原 幹氏による基調講演では、構造家 佐藤 淳氏とともに手掛けた3つの作品の実例が紹介されました。

1つ目は、2013年にグッドデザイン賞を受賞した『群馬県農業技術センター』です。本館・会議棟ともに「木で造る大きなテント」をコンセプトとし、大屋根を「格子膜構造」と呼ぶ小断面製材を格子状に組み合わせた架構方法として、新しい木造架構の可能性を追求しました。どこを見ても木造の屋根が見えることで「一つ屋根の下」感が生まれ、研究者・外来者にとって見通しの良い開かれた空間となっています。

「施工途中に屋根が構造計算よりも大きく下がり、『サッシが入らない!』と現場から焦りの声が届きましたが、屋根全体が組み上がってみると構造計算とぴったりで、さすが佐藤さん、という感じでした。」

2つ目の実例『陸前高田市高田東中学校』は、東日本大震災で被災した3つの中学校を統合して高台に移動した新校舎です。どこからでも海が見える平面設計、周囲の山並みに寄り添うように連なるカテナリー曲線状の木の屋根並みで、地域の居場所になる建築を目指しました。学校づくりは生徒や教員、地域住民の様々な希望や意見を受け入れながら進み、地元の木材をふんだんに使用した建物となっています。被災地での施工性、工期短縮を考慮して、屋根はワンウェイで施工できる方式としました。また、積雪に対して鋼線によるプレテンションを施すなどの地域に特化した工夫もされています。こちらも2017年グッドデザイン賞金賞を受賞しています。

実例3つ目『大船渡消防署住田分署』は陸前高田市の隣町で豊富な木材資源と昔からの古い町並みを持つ住田町の「木質の中心市街地」の計画として、「住田町役場」の隣に建てられました。接合部に金物を使わない貫式ラーメン構造を採用しています。車庫部の大空間は貫式フィーレンデール・トラス構造とし、13.65mのスパンを確保しています。

「金物を使わない建物は建築時の音にまで心地良さを感じました。役場と併せて木造の大きな建築物が2つ以上あると町が途端に木の要素を帯びます。夜に消防署の灯りで木の建物が浮かび上がる様子には、建物がまるで行燈のように街を見守っているような佇まいがあります。」

木の持つ特性やそれぞれに異なる形状による空間の豊かさやおおらかさ、「締め直せば良い」とするメンテンナンス性や永遠性などにより、木造建築には建物ごとに都度新しい発見があるとのこと、それらについての考えを深く突き詰め木造の可能性を拡げたいと話されました。

◆構造デザインで実現する「こもれび」の空間

続いての基調講演では、佐藤淳構造設計事務所 佐藤 淳氏より構造家の視点からのお話を伺いました。

群馬県農業技術センターや陸前高田市高田東中学校のカテナリー曲線状の屋根は、圧縮と引張強度がほぼ同じである木材だからこそできる形状です。非線形解析にて解析モデルでシミュレーションするとともに、引張に対しての実データが無かったクリープ現象やメカノソープ現象に対しては、自ら試験を実施して伸びる長さを検証したとのことです。

また、陸前高田市高田東中学校では、積雪荷重を考慮して弾性範囲であらかじめ曲げておくことにより変形を防ぐ「ベンディングアクティブ」の性質を利用するなど、建物の要素、用途、場所などそれぞれに応じた手法で構造設計を実施しています。

「隈研吾さんとのプロジェクトでは様々な「木組み」による構造設計に取り組みました。細い材を使って「ナチュラル」「快適」な構造体の空間を作れないかというアイデアから、2次元スペクトル解析を利用しています。「こもれび」や「さざなみ」など、表現したいスペクトルを分析し、自身の構造デザインと比較しながら自由な構造設計ができないかに取り組んでいます。」

中大規模木造建築物の近い未来の展望として、構造解析やCNCの発達により今後、軽くて細い木材でも丈夫な構造や、大工の技がさらに引き立つ複雑な形状など様々な木造建築物が生まれてくる可能性があるだろうと話されました。

◆中大規模木造建築を実現する、一気通貫のワンストップサービス

次にエヌ・シー・エヌ 特建事業部 部長 福田 浩史による、中大規模木造建築物のデザインを実現するために必要な、実際の設計プロセスに応じた問題点と押さえるべきポイントについての実務講演を行いました。

「中規模木造を建築する際の設計・生産の課題として、構造設計者の不足、接合部の未規格化、材料の調達難、見積もり精度不足、プレカット工場での加工図作成不可、受注後の加工手戻り、製造工場の能力や品質レベルの不明確さ、施工の不得手などが挙げられます。これらを解決すべく、エヌ・シー・エヌのSE構法では木構造におけるシステム化を実現しました。構造設計、積算、調達、加工、施工の一気通貫のワンストップサービスで、『正しく構造設計し、正しく生産、提供し、正しく施工を行う』という仕組みを構築しています。」

SE構法では中大規模木造ではBIMを活用し、4階建てなどの大型案件であっても正確かつスピーディに納まりを確認していくことが可能です。数多くの中大規模木造を手掛けた経験・実績から、木造を難しいと感じてしまう要因を解決するべく、建築物の規模や用途、基準に適した材料・構造形式の選定方法、構造計画・材料計画での注意点やコストダウン成功例、適切な加工工場・施工業者の選定方法など、具体的なポイントについて説明しました。

「SE構法だけでなく構法を問わずすべての中大規模木造建築物についてワンストップで支援するべく、2020年2月に『株式会社木構造デザイン』を設立しました。もっと非住宅木造の市場を喚起し、日本に美しくて強く、端正な木造建築を普及させるために少しでも力になれればと考えております。構造設計、積算、調達、加工、施工において不明な点や、出来る出来ないなどのお問合せレベルでも結構ですのでぜひお気軽にお声がけください。」

◆木造建築を当たり前にするには?今後の展望と可能性

パネルディスカッションでは、新建築社 四方 裕氏の進行のもと、SALHAUS 安原 幹氏、佐藤淳構造設計事務所 佐藤 淳氏、エヌ・シー・エヌ 福田 浩史による、建築家、構造家、メーカーそれぞれの視点から「木造建築を当たり前にするには」をテーマに、木造の今後の可能性を探るべくトークセッションが行われました。

「2000年以降やみくもに建築物が建てられなくなってきた中で、木造建築物は建てやすい流れが来ています。ただ、今のムーブメントに甘んじるだけでは文化として根付くことが難しい。地元の木を使うことも、ただ使うだけではなく伐採や調達方法まで、検討しなければならないことはたくさんある。木造建築が当たり前になるためには、なぜ木で造られたのか、木で造ることでどういったメリットがあるのかを言語化していく必要がある。」(安原氏)

「建築物の施工は簡素化するのが一般的な流れで、木造建築物に関してもプレカット材をはめ込んで組み立てるだけの現場も増えているが、大工の技量によって意匠や構造の采配が変わることもある。海外からも注目を受ける大工の血を絶やさないように、少しでも良いから大工が腕をふるう必要のある場面を取り入れていきたい。デジタルの発達により伝統的な技巧が廃れるのではなく、ともに発展してほしい。」(佐藤氏)

「木造でどんどんシンボリックな建物が出てきてほしい。そのために設計者の悩みである木造ならではの煩わしいシステムを解決していきたい。CLTなど今後どう使うか手探り状態の材の活用方法を拡げ、適材適所にうまく組み合わせられるようにしていきたい。」(福田)

RC造などとは違い、木は多く使えば使うほど喜ばれる面白い材料です。ブームで終わらせることなく中大規模木造建築を当たり前にするには、ただ木造建築物を増やすだけではなく、建てる地域、使う材、建てる人の未来も考えていく、それが本当の意味で持続可能な社会に繋がるのではないでしょうか。木造建築の今後について考える興味深いセミナーとなりました。

 

■『木造デザイン』建築家・構造家・木構造メーカー それぞれの視点

【登壇者】
・安原 幹  (SALHAUS)
・佐藤 淳  (佐藤淳構造設計事務所)
・四方 裕  (新建築社 月刊『新建築』編集長)
・福田 浩史 (エヌ・シー・エヌ 特建事業部 構造設計一級建築士)

【カリキュラム】
17:00-17:30 基調講演  安原 幹   (SALHAUS)
17:30-18:00 基調講演  佐藤 淳  (佐藤淳構造設計事務所)
18:00-18:30 実務講演  福田 浩史 (エヌ・シー・エヌ)
18:30-19:30 パネルディスカッション
         パネラー  安原 幹   (SALHAUS)
              佐藤 淳   (佐藤淳構造設計事務所)
               福田 浩史 (エヌ・シー・エヌ)
         進 行   四方 裕  (新建築社)
■開催概要
【開催日時】2020年2月28日(金)17:00ー19:30
【会  場】東京会場:AP新橋(東京都港区新橋1‐12-9 A-PLACE新橋駅前)
【主  催】株式会社エヌ・シー・エヌ
【後  援】新建築社
【定  員】150名
【参 加 費】無料・先着順

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